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日本新9秒95・山縣亮太が29歳に 「高校生の頃、朝原宣治さんのマネしていました」つながっていた北京とリオの4×100mリレー 

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宝田将志

宝田将志Shoji Takarada

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photograph byNanae Suzuki

posted2021/06/10 06:00

日本新9秒95・山縣亮太が29歳に 「高校生の頃、朝原宣治さんのマネしていました」つながっていた北京とリオの4×100mリレー<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

男子100mで日本新記録を樹立した山縣亮太は6月10日で29歳の誕生日をむかえた。高レベルな戦いが続く男子短距離界には東京五輪でも大きな期待がかかる

高野が導入した「アンダーハンドパス」

 このプレッシャーは「世界の壁」に跳ね返され続けてきた歴史の重さでもあった。

 日本は100mにおいて、1932年ロサンゼルス五輪で吉岡隆徳が6位入賞を果たしたが、以後、誰一人として決勝に勝ち上がれていなかった。4×100mリレーに関しては、'68年メキシコ五輪を最後に日本の出場は途絶え、平成に元号が変わる前年の'88年ソウル五輪から再び参戦するようになった。「個人でなく、4人で戦うリレーなら通用するかもしれない。日本のレベルを上げるには短距離に夢がないといけない」との考えが、当時の日本陸連上層部にあったとされる。

 ターニングポイントは、400m日本記録保持者の高野進が現役を退き、'97年から短距離チームを指導する立場に就いたことだった。高野は2001年シーズンを前に、新たなバトンパスをチームに導入した。後に日本の伝統となる「アンダーハンドパス」である。

 リレーのバトンパスには「オーバーハンド」と「アンダーハンド」の2つの方法がある。オーバーは次走者が後方に腕を伸ばし、前走者が上からバトンを渡す。2人の間の距離を稼ぎやすい。これを「利得距離」と呼ぶ。

アンダー導入後、日本は世界大会の決勝の常連国に

 欠点は、受け手が腕を高く上げるため加速しにくい点だ。一方、アンダーは次走者が腕を下に向け、前走者がそこに下からバトンを押し込んでパスする。走る姿勢に近く加速しやすいが、2人の位置が近くなるため利得距離は稼ぎにくい。

「利得距離よりも、近づいて安全に、かつ高速で渡す。日本人らしい美しいバトンワーク。忍者が知らない間に、さっと渡していく、そんな形をイメージしていた」と高野。目論見どおり、アンダー導入後、日本は安定したバトンワークを武器に世界大会の決勝の常連国となっていく。

 '04年アテネ五輪4位。'07年大阪世界選手権では38秒03の日本記録(当時)をマーク。それでも順位は5位だった。表彰台に手が届きそうで届かない。そんな状況で迎えたのが北京五輪だった。

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