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専門家「“ストレスならやめればいい”と言う精神科医も」 大坂なおみの告白から考える“アスリートとメンタルケア”の現状 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byHiromasa Mano

posted2021/06/04 17:01

専門家「“ストレスならやめればいい”と言う精神科医も」 大坂なおみの告白から考える“アスリートとメンタルケア”の現状<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

大坂なおみの告白は世界に衝撃が走っているが、専門医もアスリートとメンタルの状況に頭を悩ませている

「あまりスポーツへの理解がない精神科医がいる事情もあります。アスリートに対して『そんなにストレスなら競技をやめればいい』とアドバイスする精神科医もいるのです。競技は選手にとって人生そのもの。周りが説得して精神科に連れて行ったら、このように言われて、精神科に行くことを拒んで治療をやめた選手がいたと聞いたことがあります。会社員に職場や部署を代えて復帰するようアドバイスするのとは違い、アスリートには選手復帰以外の選択肢はありません」

脳の神経システムの関連性は有力とされている

――大坂選手は会見を拒否した理由を「メディアに話す前に大きな不安に襲われる」と説明しました。過去の会見を、どのように見ていましたか?

「これまで大坂選手のインタビューを詳細に追っていたわけではないですが、天真爛漫に答える姿に好感を持っていました。そう感じていた人は多いのではないのでしょうか。一方でこれは個人的な見解ですが、試合を整理しながら論理立てて話をするのは得意ではないのかもしれないとも感じていました。

 大坂選手は、勝っても負けても論理立てて試合を振り返り、今後の意気込みを語る他の選手のようにできないことをストレスに感じていたのかもしれない。あるいは、注目される中で人前に出て話をすることに、大きなストレスだったのかもしれません。もちろん試合も注目されますが、言葉を発することなくプレーという行動で表現できるもの。インタビューは言葉を発して、さらに質問もくる。それが苦手でストレスを感じていた可能性があります」

――インタビューにストレスを感じる状態が続き、うつ状態になったと考えられますか?

「ストレスとうつの関連は十分に明らかになっているわけではありませんが、ストレスにより血中のストレスホルモンが上昇し、これが脳の神経システムを攻撃して不調をつくる説は有力です。大坂選手のストレスは、2018年の全米オープンで優勝した頃から、かなり大きくのしかかってきたのではないかと思います。世界が注目するようになってテニス以外についても質問され、様々な分析がされるようになりました。トレーニングをして強くなれば、ストレスを感じる人前への露出につながるという図式に常にさらされるのは、かなりのストレスだったと想像できます」

オーバートレーニングから“うつ状態”になる人も

――どんな人がうつ病になりやすいのでしょうか?

「生真面目で完璧主義、人の言うことをしっかり聞く人は、うつ病になりやすいと言われています。こういうタイプは競技力が上がっていく一方で、柔軟性がないケースが多い。想定外のことが起きた時にうまく対応できず、不安になる。それから、責任感が強い人。オーバートレーニング症候群も、こういう選手に多いように思えます」

――過剰なトレーニングを繰り返してパフォーマンスが低下する「オーバートレーニング症候群」。うつ病になるケースも多いのですか?

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大坂なおみ

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