Number ExBACK NUMBER

「ウマ娘の取材じゃないんだね」“奇跡の名馬”トウカイテイオーの血は途絶えてしまうのか? 関係者に聞いた 

text by

石田敏徳

石田敏徳Toshinori Ishida

PROFILE

photograph byHirokazu Takayama

posted2021/05/22 17:03

「ウマ娘の取材じゃないんだね」“奇跡の名馬”トウカイテイオーの血は途絶えてしまうのか? 関係者に聞いた<Number Web> photograph by Hirokazu Takayama

1991年の日本ダービーを制したトウカイテイオー

 父親に買ってもらった「日本の種牡馬録」を熱心に読み耽り、中学生の頃から名馬の配合を研究するほど血統への関心が深かった紀次は、「ラトロワンヌ系の繁殖牝馬を自分の起点にしたい」と考えた。そして手に入れたのがポポチャンの母アトラクトだった。

 もともとは社台ファームが輸入し、ノーザンコンダクト(1991年・ラジオたんぱ杯3歳Sの勝ち馬)を送り出したアトラクトは、1996年に社台グループが開催した繁殖牝馬セールに上場された。ラトロワンヌ系の血を引く重賞勝ち馬の母である。

 当時、20代だった紀次は不退転の覚悟で会場へ足を運んだ。

「僕と競っていた社台グループの関係者の方に、勝己社長(ノーザンファームの吉田勝己代表)が『あの若い兄ちゃんがあれだけ頑張って競っているんだから、お前はもう下りてやれ』と言ってくださったみたい。それで落札することができました」

 ハクツ牧場へ来てからのアトラクトは目ぼしい活躍馬は出さなかった。とはいえ、名門牝系は枯れない泉のようなもので、血を繋いでいけばいつか、牧場を支える「カマド馬」が出る。その役割を担うことになったのがアトラクトにテイオーを配合し、2005年に誕生した牝馬ポポチャンだった。

 身体が小さくて買い手がつかず、競走馬になるための馴致もせずに繁殖入りさせたポポチャンだが、2番子のケントオーは中央で5勝をマークし、オープンまで出世。獲得賞金は1億3千万円を超えた。中央でデビューした産駒は非常に高い確率で勝ち上がっており、ケントオーと同じ田畑富子オーナーが所有する現3歳のトーカイキングもすでに未勝利を脱している。

名血はいつか甦る

「ウチみたいな小さな牧場にとっては(中央のレースを勝つと支給される)生産者賞も貴重な収入なんです。アトラクトの血も残してくれたし、ポポチャンは本当、宝物のような馬になりました」

 今年、父アルアインの牝馬を産んだポポチャンの産駒のうち、現5歳のベストクィーン、現4歳のハッピーペコも競走生活を引退後は牧場へ帰ってくる予定。さらなる血の広がりに期待をかける紀次は、母の父、祖母の父として血統表に入るテイオーの血が絶妙な“隠し味”になると睨んでいる。

 その理由については本編を読んでいただきたいが、紀次の解説を聞いたあと、編集者が漏らした一言をヒントとして記しておこう。

「要するにあれは“濃すぎるお酒をどうやって割るか”という話ですよね?」

 名血はいつか甦る。一般的には牝系に対して用いられる言葉だが、倒れても倒れても、不死鳥のように甦って劇的な勝利を掴み、人々の心を打った馬のことだ。先細り傾向にある現在の逆境を乗り越え、トウカイテイオーの血が再び脚光を浴びる日を楽しみに待ちたい。

発売中の日本ダービー直前競馬特集のNumber1027号「ウマい騎手ってなんだ?」では、エフフォーリア&横山武史に迫る「無敗二冠へ、怖いものなし」を掲載しています。さらに1012号に掲載された横山典弘、長男の和生、三男の武史による親子座談会「横山家、勝負師三代の教え」を全文無料公開中です。

関連記事

BACK 1 2 3
#トウカイテイオー
#シンボリルドルフ
#ナリタブライアン
#サンデーサイレンス

競馬の前後の記事

ページトップ