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「ウマ娘の取材じゃないんだね」“奇跡の名馬”トウカイテイオーの血は途絶えてしまうのか? 関係者に聞いた 

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石田敏徳

石田敏徳Toshinori Ishida

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photograph byHirokazu Takayama

posted2021/05/22 17:03

「ウマ娘の取材じゃないんだね」“奇跡の名馬”トウカイテイオーの血は途絶えてしまうのか? 関係者に聞いた<Number Web> photograph by Hirokazu Takayama

1991年の日本ダービーを制したトウカイテイオー

「オーナーや調教師さんに聞いたのは『馬同士の中でダントツに強かった』という話。人間にたとえるなら、近づいてこられると、みんなが逃げて回るような存在ですかね。装鞍所、パドックからゲート裏に来た時点で、もう勝負がついていたんだという話をされていました」

 スタート前によく、睥睨するように周囲を見回していたテイオーの姿を覚えているが、あれは他の馬たちを威圧していたのだろうか。実際、レースで併せ馬の形になれば絶対に負けなかったから十分に説得力がある。

 速く走る能力とはまた別物の強弱関係。だが、それは産駒に伝えるのが難しい部分でもあった。

「馬同士が感じあうオーラ、メンタルの部分で“強かった”というのは生産者にとって、非常に難しい領域に入ってしまいます。その点からすると、むしろサラブレッドの『本当の頂点に立った馬』じゃないかと思います。自身が天才的に頂点に立ってしまっているので、それを超える馬をつくるのは大変だったという感覚はありますね」

 GⅠを勝った産駒はトウカイポイント(マイルCS)、ヤマニンシュクル(阪神JF)、ストロングブラッド(かしわ記念/船橋競馬)の3頭。後継種牡馬となる大物は残せなかった。

では“母の父”としてのテイオーは?

 母の父としてはこれまで、豪州移籍後にGⅠを制したブレイブスマッシュ、中山大障害の覇者シングンマイケルなどの活躍馬を送り出しているものの、全般的にこちらも「先細り」の感は否めない。

 それでもポポチャンという風変わりな名前のテイオー牝馬が繫養されているハクツ牧場の村田紀次は、“母父としての血”に大きな期待をかけている。

 ハクツ牧場は大久保正陽厩舎でナリタブライアンを担当していた村田光男調教助手の実家で、紀次はすぐ上の兄。メジロ牧場で馬乗りを学び、厩舎の世界へ入った弟に対し、兄は牧場を継ぐ前、千葉県のシンボリ牧場で修行を積んだ。テイオーの父シンボリルドルフが現役の頃である。

「馬乗りの勉強をさせてもらっているときに一度、『ルドルフに乗ってみるか?』と水を向けてもらったことがあったんです。だけど『何か起きたら大変だし、恐れ多くて乗れません』と断ってしまって。今から思えば凄く勿体ないことをした。あれは一生ものの後悔です」

獲得賞金1億3000万円を超えた馬も…

 千載一遇の好機は逃してしまったが、名門牧場で修行を積んだ経歴は紀次の生産者人生に大きな影響を与えた。シンボリ牧場の隆盛を支えた基礎繁殖牝馬の1頭にスヰート(父子3代天皇賞制覇の祖となったメジロアサマの母)という馬がいる。世界屈指の名門・ラトロワンヌ系の血を引く馬として、初めて日本に導入された馬だ。

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