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「ウマ娘の取材じゃないんだね」“奇跡の名馬”トウカイテイオーの血は途絶えてしまうのか? 関係者に聞いた
posted2021/05/22 17:03
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph by
Hirokazu Takayama
ここでは、本編で書ききれなかったエピソードを特別に公開いたします。
「ウマ娘の取材じゃないんだね」
写真撮影のため、スタッフがミニパドックへ引き出してくれた馬はどこか不機嫌そうだった。早く馬房へ戻してくれと催促するように何度もいななき、狭い放牧地を盛んに駆け回る。
門別競馬場の岡島玉一厩舎で競走馬デビューを目指し、今年の2月から坂路調教を積まれているこの7歳馬の名はキセキノテイオー。2013年に天へ旅立った父が遺した、正真正銘の「最後のトウカイテイオー産駒」である。
無傷のダービー制覇から30年ということで、テイオーの血を引く馬を訪ねて回っているんです──。取材の趣旨を説明すると、スタッフがこう言って笑った。
「じゃあ、ウマ娘絡みの取材というわけじゃないんだね」
最近、テイオーの名前は「ウマ娘」に関連して取り上げられるケースが増えた。現役時代の育成先、休養先でもあった二風谷ファームの稲原昌幸によると、内村正則オーナーも御子息ともども、そうした反響を「とても喜んでいる」という。関係者にとってはどんな形でも、トウカイテイオーの名が脚光を浴びるのは嬉しいことなのだ。
しかしゲームの世界で再び火がついた人気とは裏腹に、現実の生産界におけるテイオーの血は年々、「先細り」の状況にある。なぜそうなってしまったのか。その背景についてはNumber1027号を読んでいただくとして、ここでは書ききれなかった話をいくつか紹介したい。
テイオーは潔癖症みたいなところがあった
種牡馬としての供用先・社台スタリオンステーションの徳武英介によるとテイオーは「孤高」の2文字がよく似合う馬だったという。
「頭がすごく良くて、馬房のなかでボロ(糞)の上に寝て体を汚すなんてことはなかったし、潔癖症みたいなところがありました。それはちょっと、馬を超えた生活ぶりでしたね。いつ見ても格好いいし、トシを重ねても年齢を感じさせない。一方で“オレは人間の世話にはならないぞ”みたいな雰囲気もあって、だから(急性心不全で)亡くなったときにはスタッフがみんな、『人の手を煩わせない、テイオーらしい最期だった』と口を揃えていました」
なぜテイオーは大物を残せなかったのか
スタッフにとってはとても扱いやすい馬だったというが、周囲の馬からは「一目置かれていた」そうだ。