松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
高嶋活士が語る競馬と馬術の騎乗の大きな違い…「馬と共にもっと気楽に楽しく」に修造が共感する
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2021/05/30 11:02
競馬の「モンキー乗り」とはまったく違う乗馬フォームに、高嶋選手は当初手こずったという
松岡:騎手だった頃の習性で攻めたくなっちゃうわけですね。
高嶋:そうです。競馬ではオラオラというか、イケイケというか。とにかく真っ直ぐ前を見て速く走ればいいんだろ、みたいな感じでしたからね。でも馬術は、乗っている人が何もしていないのに馬が自らきれいに動いているように見せるのが良いとされているので、極端な話、人は口笛でも吹きながら涼しい顔をしているくらいが理想です。
頑張り過ぎに気づけたコロナ禍の自粛期間
松岡:活士さんはお話しされている様子がとても穏やかですよね。ただ先ほど照井さんは、「試合でここぞというときにはガッツがある」とおっしゃっていて、きっと騎手時代の攻めの姿勢と馬術を始めてからの落ち着きというのが、今、上手く合わさっているんでしょうね。
高嶋:そこに関しては、最近分かってきたことがあるんです。実は去年、一昨年とスランプの時期があって、競技の成績が全然良くなくて。2020年4月に最初の緊急事態宣言が出されたのを機に大会が軒並み無くなり、ひたすら練習に時間を費やすうちに、今までの自分のやり方は間違っているんじゃないかなと感じ始めました。
松岡:どういうところが間違いだと思われたんでしょうか?
高嶋:コロナ禍で考える時間が増えたので、その日の練習だったり生活だったりを振り返り、次はこうしてみようという課題を試しているうちに、自分は頑張り過ぎていたのかなということに気づいたというか。コロナの影響で東京パラリンピックも1年延期になって、自分ではどうにもならないことが増えて、一旦、諦めというかネガティブな感情にもなったんですけど、人がじたばたしたところで馬は「何だよ?」って感じじゃないですか。だったら馬と共にもっと気楽に楽しく、ハッピーな方向に持っていった方がいいんじゃないかって、頑張り過ぎなくてもいいんじゃないかって思えるようになったんです。
松岡:めちゃくちゃ、いいポイントですね。自分では変えられないことに対して、あれこれ考えて、無理やり変えようと頑張ってしまうのが人間の心理で、コロナ禍では一番多いわけですよね。活士さんも、人馬一体となって競技で良い成績を出そうと思っていたけれども、ケネディが「どうしようもないこともあるんだよ、それでいいよ」って気づかせてくれた。それで活士さんは自然体になれたという気がします。
ここで松岡さんは、二人の愛娘と一緒にインタビューを見守っていた高嶋選手の妻・なおみさんにいきなり話を振る。お二人は高嶋選手が落馬事故に遭った後に出会い、騎手を引退後に結婚した。