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“一人暮らしと公園での練習” 坂本花織が困難を逆手に掴んだ手応え【シーズン最後に自己ベスト更新】
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/04/25 06:00
今季最後となるフリーの演技後、全身を使って飛び跳ね、ガッツポーズを見せる坂本
変化はさまざまなところに表れた。その1つは昨春から始めた一人暮らしで身につけた姿勢だ。
「順序良くやらないと家事も進まないし、そのうえ、練習にも行かなければいけない。全部一人でやるようになったため、自分で考えなければいけないことも増えました。すると、『今、これをすることが後につながるのか』と考えるようになり、『今は必要ないからやめよう』と、無駄な時間が減っていきました。そうするとスケートのために、というところから考えられるようになっていきました」
選択と集中の必要性から、おのずとフィギュアスケートが中心になっていった。その根本に雪辱の思いがあったからこそだった。
人目をはばからず公園で振り付けの練習
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コロナ禍で氷に乗ることができない1カ月半ほどの期間も無駄にしなかった。
例えば、公園で1人、振り付けの練習に励んだ。中野園子コーチとともに指導を受けるグレアム充子コーチに映像を撮ってもらい、振付師のブノワ・リショーにリモートで観てもらいながら取り組んだ。
もともとは人目を気にする性質だったと言う。公園も公共の場だから当然、通行人もいれば、そこで時間を過ごす人もいる。
「でも、ブノワ先生にも貴重なお時間をいただいているので、周りの目を気にせずに練習しました」
そこにも時間を無駄にしたくないという意欲があったし、支えてくれる人々への感謝も見え隠れする。
これらはこの1年を物語る一端でしかないが、それだけでも坂本の取り組み方の変化を明確に伝えてくる。そうした過程が自信となっていたからこそ、目指してきたミスのない精度の高い演技を見せることができるシーズンとなった。その成果として2年ぶりに世界選手権代表にもなり、最終的には胸を張って、「今シーズン頑張ってきた土台が認められた」と言うことができた。
坂本の今シーズンの歩みは、困難な状況にあっても取り組む姿勢が変わることで得られることの大きさ、時間や機会をいかせることをも示している。
『マトリックス』で有終の美を飾った坂本は、新たなシーズンを見据える。自身2度目となるオリンピックシーズンである。
今シーズン、トリプルアクセルや4回転ジャンプを組み入れない中でも上位に食い込めたからこそ、課題を見出した。高難度ジャンプの習得である。
「4回転を入れたらどうなるか、わくわくします。オリンピックシーズンなので、攻めて攻めて、攻めまくりたいです」
たしかな手ごたえを感じ土台を築いたシーズン、それを引き寄せた自らの変化を自信に、坂本花織は、4年に一度のシーズンを見据えている。