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“予定通り”天皇杯を制覇…新生・川崎ブレイブサンダースの土台が固まった「甘い蜜の味を知れたからこそ…」
text by
青木美帆Miho Awokie
photograph byJBA
posted2021/03/19 17:01
2014年に前身の東芝として制して以来、7大会ぶり4度目の優勝を果たした川崎ブレイブサンダース
ファイナルラウンドをシーズンにおける重要なポイントに定めたことで、チームの基礎や共通理解もここを目指して固まっていった。
たとえば、ファイナルラウンドでも大いに力を発揮した以下が、その例として挙げられる。
1.「Be Ready(準備する)」「Be Tough(タフに戦う)」「Dictate(やりたいことに誘導する)」「Disrupt(やりたいことをさせない)」「Full Throttle(最初から最後まで全力)」の5原則の徹底
2.誰もが3ポイントシュートを打てる攻撃スタイル
3.前線からの強いプレッシャーディフェンス
いずれもシーズン中、佐藤や選手たちの口から何度も何度も出てきた言葉だ。
また、決勝当日、ホテルから会場に出発する前に実施した長いミーティングで、佐藤は選手たちにこう伝えたという。
「チームで積み重ねてきたものはもちろんだけど、君たち1人ひとりが努力してきた積み重ねが裏切ることも絶対にない。こういう大一番、自信を持って自分を信じて、チームメイトを信じて全部出し切ろう」
課題を前向きに解決するチームのエネルギー
優勝するために一昨年に移籍加入し、「今年が勝負の年」と覚悟を決めた大塚裕土。不慣れな3番ポジションでプレーすべく、チームいちの自主練習量で補うルーキーの増田啓介。仲間たちの「絶対入るからシュートを打ち続けろ」という言葉に励まされ、毎日シューティングを重ねたジョーダン・ヒース。
これまで、彼らが“チームの顔”である篠山やニック・ファジーカス、辻直人のように脚光を浴びることはほとんどなかったが、彼らはコツコツと努力をし続けた。そしてファイナル当日、佐藤に「自分を信じろ」と強く意識付けをされたことで、大舞台で勝利を引き寄せるシュートを決めたのだ。
川崎は、シーズン当初から相次いだケガ人がカムバックした中盤以降も、連勝が伸びず、いささかピリッとしない時期が続いた。それでも敗戦後の会見に現れる佐藤は、フラストレーションや落胆を一切まとわず、淡々と「やるべきことはやれている」という主旨の言葉を口にし続けた。
当時は「なぜこんなに落ち着いていられるのだろう」と不思議な思いだったが、今振り返ると佐藤は、選手たちの努力を把握し、ファイナルラウンドに向けたチームのKPI(重要業績評価指標)が順調であることをきちんと知っていたのだろう。
「このチームには、課題を前向きにクリアしようとするエネルギーがある」
選手たちを評する佐藤の言葉に、彼らへの強い信頼感が見えた。