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レブロン「理由も見いだせない」…オールスター開催に否定的でも「誰一人出場を辞退しなかった」のはなぜか?
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2021/03/10 17:03
「興味ない」と今季のオールスター開催に否定的な意見を述べていたレブロン・ジェームズ
一部の選手たちの当初の拒否反応も無理もないところだったのだろう。バブル(隔離施設)ではなくそれぞれの地元コートでの試合開催に拘った今季、リーグが定める安全衛生プロトコルのおかげで約30戦のゲームが延期されてきた。コート外でも様々な制約を設けられ、チームメイト同士で遠征先の食事もできない状態。自由に体育館で練習もできず、不自由な生活、調整を余儀なくされているのにもかかわらず、豪華なエキジビションゲームを挙行するのは確かに理に適わないことのようにも思える。
NBAが誇るベストプレーヤーを一箇所に集め、お祭りを行った上で、クラスターが出た時のダメージは計り知れない。ここはリーグ全体が一時休息し、後半戦に向けて態勢を整える方が得策。八村塁も選出されたライジングスターのように、前半戦で躍動した代表メンバーを選出、発表するだけでも良かったのではないか。
ただすべての後で、今年のオールスターを現場で見つめた筆者には、この祝祭を開催することにはやはり大きな意味があったようにも思えた。
本戦当日にジョエル・エンビード、ベン・シモンズが感染追跡のために出場不能になるという波乱もあっただけに、「オールスター挙行は正しいことだった」と言い切るのは依然として難しい。それでもNBAとそのファンにとって、オールスターは“必要なイベント”だったように感じられたのだ。
反対意見があっても「出場辞退者が出なかった」のはなぜ?
昨季、パンデミックのおかげで莫大な収入減となったNBAには、1年前は平均視聴件数730万件を稼ぎ出したリーグの看板イベントは重要すぎた。9年240億ドルという途方もない契約を結んだターナー(=傘下のTNT局が本戦を放送)/ESPNを満足させ、1試合で3000万ドルとされるテレビの広告収入を失わないために、リーグはオールスターを簡単に中止にはできなかったのだ。
「パンデミック下の今季に経験したことを考えれば、(オールスター開催に関しても)違ったふうに見るべきかと思った」
現代のリーグを代表する存在であるレブロンはそう述べ、実際に本戦の後半はプレーしなかった。それでもこのレブロンをはじめとする現代のスーパースターたちは、NBAのビジネス面の意味を熟知している印象がある。長引くパンデミックの中でこのままリーグ全体の収入減が続けば、特に中堅、若手選手たちの契約、サラリーに大きな影響が及ぼされかねない。だからこそ選手会は球宴の開催を承諾したのであり、結局は故障者以外で出場を辞退する選手は1人も出なかった。
もちろん彼らは巨額収入を守るためだけにプレーしたというわけでもない。この1年でパンデミック、“BLM(Black Lives Matter=黒人の人権運動)活動”といった歴史的な事象に直面してきた選手たちは、自分たちの影響力とNBAという巨大なプラットフォームを通じて世間に送るメッセージの意味の大きさももう十分に理解している。