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赤ん坊なのに「大人言葉」、毎日8冊超速読…父が明かす糸谷哲郎八段伝説【故・村山聖九段との指導対局も】
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byYasuhiro Itodani
posted2021/02/06 06:01
幼少の頃、故・村山聖九段から指導対局を受けたこともある糸谷八段
「先生が亡くなられる数年前、広島将棋センターで指導対局をしていただいたことがある」
小学校低学年で『三国志』を読破
――その頃も、糸谷八段はたくさん本を読んでいたの?
「そうだね。推理小説とかSFとか歴史小説とか、一日3冊くらい読んでいたかな。夕方、僕が会社から広島将棋センターへ行き、本屋へ寄って本を何冊か買ってから、バスに乗って家へ帰る。家に着くまでの30分ほどの間に、たいてい1冊は読み終えていた。
小学校低学年で『三国志』を読破した。興味があるかなと思って、大前研一さんの『企業参謀』を読ませたこともある」
――そ、それはすごいな。どうしてそんなに難しい本を速く読めたんだろう?速読術の本を読んでいたわけじゃないよね?
「子供だから、そんなことはしない。文章を一字ずつ読むのではなく、ページを画像として記憶する方法を自然に会得したらしかった」
――画像記憶とか映像記憶とか呼ばれる記憶法だね。糸谷や奥さんもできるの?
「いや、僕も妻もできない(笑)。2人とも本を読むのは好きだけど、それほど速くはない」
最初は学者か研究者になってもらいたかったが
――で、将棋センターに通い始めてからどんどん強くなったの?
「そうだね。将棋が面白くなり、次第にのめり込んでいった。
中国新聞が主催する『中国こども将棋名人戦』という大会が年に2回あった。小学校低学年の部、高学年の部、中学校の部に分かれているんだけど、4年間、8期連続で優勝した。やがて『(日本将棋連盟の関西)奨励会の入会テストを受けたい』と言い出した」
――奨励会って、プロ棋士養成機関だよね。糸谷と奥さんは、息子が棋士になることに賛成だったの?
「いや、最初はそうじゃなかった。妻は、学者か研究者になってもらいたかったようだ。僕は、哲郎が三国志や戦国武将の本を読むのが好きだったから、経営コンサルタントに向いているんじゃないかとも思っていた。当時は、プロ棋士の生活がどんなものかもわからなかったしね。
でも、息子がどうしても入会テストを受けたいと言うので、『一度くらいならいいか』と思った。村山先生の師匠でもあった森信雄先生に師匠になっていただき、テストを受けた。それで合格したので、以後、月に2回、大阪の奨励会に通うようになったんだ」
――奨励会では、最初から順調だった?
「いや、そうでもない。最初の2年くらいは、足踏みをしていた」