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赤ん坊なのに「大人言葉」、毎日8冊超速読…父が明かす糸谷哲郎八段伝説【故・村山聖九段との指導対局も】
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byYasuhiro Itodani
posted2021/02/06 06:01
幼少の頃、故・村山聖九段から指導対局を受けたこともある糸谷八段
「僕の東京駐在が終わり、哲郎が4歳のとき、広島へ戻ってきた。5歳の頃、哲郎と一緒にテレビを見ていたら、将棋が出てきた。で、『お父さん、将棋って何?』って聞くんだ。僕は将棋は全然詳しくなかったけれど、駒の動かし方だけは知っていた。それだけ教えたら、すぐに覚えた。それから、入門書を一生懸命読んでいた。
しばらく親子で対局していたんだけど、すぐに僕は哲郎に歯が立たなくなった。それで、会社の同僚から彼の息子が通っていると聞いて、広島将棋センターへ連れて行った。幼稚園が終わると妻が将棋センターへ連れて行き、午後、仕事帰りに僕が寄って連れて帰った」
(※広島市の中心部にある広島将棋センターは、腎臓の難病に苦しみながら名人を目指し、志半ばにして29歳で壮絶な死を遂げた故・村山聖九段らを輩出した由緒ある将棋道場である)
哲郎は、負けてよく泣いていた
――なるほど。5歳にして、本格的に将棋を始めたわけだな。
「広島将棋センターでは一番幼い方だったけど、大人とでもお年寄りとでも全く物怖じせずに話をして、将棋を指していたな(笑)。特殊な盤と駒を使って目の不自由な方と指すこともあったし、耳が不自由な人とも指していた。幼稚園や小学校では決して出会うことがない人たちと、将棋を介して接する――。このことは、哲郎にとってとてもいい社会勉強になったと思う。
それから将棋を指すと、考える癖と集中を持続するスキルがつく。将棋には『切れ負け』というルールもあって、持ち時間を使い切ってしまったら、盤上の形勢とは関係なく負けになる。だから、短時間に最後に時間が切れるまで集中して考える癖がついたと思う。
感想戦があるのもいい。そこまでやって、対局が終わる。駒を元に戻して自分の手を振り返ることで、考える力がつく。
また、将棋では『負ける体験』ができる。哲郎は、負けてよく泣いていた。床にひっくり返って泣いていたこともある(笑)。でも、藤井(聡太)二冠もそうだけど、将棋は負けて大泣きするくらいの方が強くなるらしい」
――この頃、故・村山聖九段とも接点はあったの?