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PSG史上最高監督カルロ・アンチェロッティが明かす“1番つらい瞬間”「心から泣くときもよくある」
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph byPierre Lahalle/l’Équipe
posted2021/01/16 17:00
ズラタン・イブラヒモビッチと握手を交わすカルロ・アンチェロッティ
アンチェロッティ まったく自然な関係だ。私の性格は、私がインスピレーションを感じた人たちとの交流により形成された。
父親が最初の1人で、もの静かで落ち着きがあり忍耐強く、決して怒ることがなかった。それからリードホルム(=ニルス・リードホルム。1948年ロンドン五輪優勝、58年スウェーデンW杯準優勝。現役時代はACミランで活躍。監督としてローマで79~84年をアンチェロッティとともに過ごした)をはじめ、出会った監督たちの影響があった。他人とどんな関係を結ぶかは、それぞれの性格による。ただ、いずれにしても、正直であることが前提だ。
――これまで交わってきた人々に、強く感情移入しているのですね……。
アンチェロッティ (しばし沈黙の後)私は自分が相対する人物を、選手ではなくまず人間として見る。選手は1つの職業だ。私が選手にこうあって欲しいと求めると、彼らはしばしばこう答える。「僕はサッカー選手ですから」と。私はこう言い返す。「いや、君はサッカーをプレーしている人間だ」と。2つはまったく異なる。あらゆる関係において、私は人が何をしているかよりも、その人物の魂を尊重することの方がずっと重要だと考えている。それが基本だ。
これまで下した決断で最も厳しかったのは?
――それだけの平静さを保っていられるのは、敢えて感情を押し殺しているからですか?
アンチェロッティ それはまったくない。私はとても感情的な人間だ。心から泣くときもよくあるよ(笑)。特に選手にスタメン落ちを告げるときはつらい。彼らを悲しい気持ちにさせることで私も悲しくなる。彼らにはこう言っている。「君がスタメンでないことを告げるのはとてもつらい」と。彼らが信じたかどうかはわからないがそれが事実だ。ジョークではない。私にとって、それが監督として一番つらい。
彼らは日々の努力と節制を怠らず、スタメン出場する資格を持っている。それなのにベンチに追いやらねばならないのだから。私がどれほどのダメージを受けているか、たぶんあなた方にはわからないだろう……。
――これまで下した決断で最も厳しかったのは何ですか?
アンチェロッティ たくさんあるけど……、11人のスタメンを選ぶのは常に心が揺さぶられるが、試合の状況と重要度がさらに選択を難しくする。思い出すのは2005年のCL決勝(2005年5月25日、イスタンブール。ACミラン対リバプール。前半を終え3対0とリードしたミランは、後半リバプールに追いつかれ、2対3でPK戦に敗れ優勝を逃した)で、私は(フィリッポ・)インザーギと(ヨンダール・)トマソンのどちらかを選ばなければならなかった。
インザーギは負傷から復帰したばかりで100%ではなかったが、それまでチームのために貴重なゴールを積み重ねてくれていた。そんな彼にスタメン落ちを告げるのは断腸の思いだった。
――ロッカールームでは緊密な関係をずっと維持し続けているのですね。恐らくはバイエルンでの最後の時期を除いて……。