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「教師になりたかった」阪神・矢野燿大監督の“言葉”へのこだわり 嬉しかった主将・糸原の変化
posted2020/12/31 17:04
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Kyodo News
「僕はもともと教師になりたかった。その夢はまだあきらめていませんよ。プロ野球での仕事を終えたら、もしかしたら先生になっているかもしれない」
就任2年目を終えた阪神タイガース第34代監督、矢野燿大。
オフシーズンのメディア出演や取材にも時間の許す限り応えるという姿勢は去年も今年も変わらない。このオフも矢野監督に話を伺っていると「教えること」「伝えること」「発すること」、まさに「言葉」に強いこだわりを持っていることを強く感じる。
「“打ちたい”や“勝ちたい”じゃない。“打ちます”“勝ちます”なんです。したい、やりたいという言葉ではなく、“します”“やります”と言える人間がチームに何人いるか。話す内容、伝える言葉、発するコメントが変わってくれば行動も結果も変わるんです。言霊は必ずある」
選手の言葉に変化、バント失敗の糸原も
今シーズンの阪神タイガースは特に若手を中心に取材時のコメント内容が確かに変わってきていた。「明日、打とうと思います」という表現は「明日は打ちます」に変わり、「次は抑えられたらいいなと思います」は「次は必ず抑えます」に変わっている選手が増えていることを感じた。
「今年、特に嬉しかったのはキャプテンの糸原(健斗)がそれを実践してくれていたこと。彼はどちらかというと一匹狼タイプだった。自分の世界の中でプレーするような選手だった。けれどキャプテンに任命してから周りに発する言葉がガラッと変わった。
シーズン中、糸原に送りバントのサインを出して、結果はバント失敗。ベンチが嫌なムードになりつつある時に当の糸原が、『次、次。次は絶対、決める。過去は変えられないけど、未来は変えられる。次は決めます』と声を張りながらベンチに戻ってきた。何やってるんだよ、バント決めてくれよ……と心の内では思っていた僕もクスッと笑ってしまった。ベンチの空気も意気消沈することなく、笑みがこぼれ、明るい空気に包まれて流れが変わった。
彼の姿勢を見ていて、今年は本当に嬉しかった。助けられましたよ。プロは厳しく、辛い世界。だから明るく楽しめる空気を言葉や姿勢で作っていこうよ。僕はそんなチームにしたいんです」