箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「相馬が泣き崩れた。それが申し訳なくて…」箱根駅伝を失った直後、筑波大生たちが泣きながら考えたこと
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/12/22 11:06
筑波大学構内の陸上競技場を走る4人。左から猿橋、大土手、上迫、西
皆の涙を見ても、泣くことができなかった
給水や撤収作業にかり出されていた主務の上迫は、選手の待機場には遅れてやってきた。選手の涙を見たが、泣けなかった。抑えていた感情が爆発したのは、後日、選手の前でこう話したときだ。
「自分はベストを尽くしていなかった」
まるで懺悔のようだが、上迫には仲間に詫びる理由があった。
上迫は元々大の駅伝ファンで、箱根駅伝の順位も毎年暗記するほど。箱根を目指して筑波大に入ったが、選手として競技するだけでは筑波は箱根に出られない、出来る全てをやり尽くしたいという思いで選手を続けながら主務の仕事を買って出ていた。
だが、3年目にチームが箱根出場を果たすと、そこで目標を見失ってしまう。コロナ禍もあり、大土手と同じように夏までは抜け殻のような状態だった。
夏合宿からは遅れを取り戻すように一生懸命チームをサポートしたが、最後まで罪悪感は拭えなかった。
上迫は言う。
「その後、チームメイトに謝罪をしたんですけど、みんなが『誰だってパーフェクトにはできない。失敗を含めてのベストだったよ』みたいなことを言ってくれて、それでようやく肩の荷が少し下りました。チームは僕が驚くほど成長して、最後はみんなの熱意が自分を周回遅れにしたような感覚を覚えた。11位という一番価値のある負け方をしたので、今はそれを絶対に生かしてやろうという気持ちが強いです」
不器用なりの努力をしたことだけは確か
涙の理由は様々だが、一つだけ確かなことは、彼らが不器用なりにも泣けるほどの努力をしたということだろう。足りなかったのは、1人にしてわずか2秒弱。スポーツに「たら、れば」は禁句だが、もし相馬を始めとした主力メンバー数名にケガさえなければ……と思わずにはいられない。
だが、今回の予選会で猿橋や西が見せたパフォーマンスは、筑波大の底力を示すのに十分なものでもあっただろう。高校時代には無名だった彼らが、他大学のエースを打ち負かすほどの走りをしたことに、私は心底驚かされた。