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クラスターが発生したら、世間は僕たちを許さない…東大医学部アメフト部が苦悩の末にたどり着いた一戦
text by
齋藤裕(Number編集部)Yu Saito
photograph byYu Saito
posted2020/12/20 17:01
今年度の主将となった八木。高校まではハンドボール部に所属していた
まだ様子をみたほうがいいという声が多かった
その後、4年生の幹部の世代と各学年でZoomを使って、話し合いの時間を作った。
「みんなに意見を聞いていくと、まだ様子をみたほうがいいんじゃないかという声が多く、やるにしても基準を決めて段階的に練習を再開することを決めました。それから目指したのは、医学部生の活動として然るべき立場の人に認めてもらうこと。これらを行った上で、最終的に9月中旬頃までに練習が再開できなかったら、今季の試合出場はあきらめることを決定しました」
練習中に消毒液を持ち込みマウスピースを消毒していくことなどを定めた部のガイドラインを策定。東京大学医学部附属病院の医学部長にも許可をとり、問題があれば指導が入る体制を整えた。そうやって、部の活動をできるんだ、していいんだ、と自分たち自身も納得させていった。
練習を再開したときに、身体ができあがっていた
そもそもアメフトはタックルやリードブロックなどで接触の多いスポーツ。練習の強度を上げ、接触の機会を増やしていいのか。その“基準”を何にするかは選手同士で意見が分かれた。アメリカのアメフトリーグで使われている指標を持ち出す者もいれば、東京都の4段階の指標が良いのではという者もいた。
議論の末、導きだされたのが、実効再生産数だった。 実効再生産数とは、感染が広がっている状況下において、1人の感染者が平均で何人にうつすかを示した指標だ。2週間程度で練習のフェーズを上げていくと記された関東学生アメフト連盟のガイドラインに、彼らなりの「東京での実効再生産数1以下」という条件を書き加えた。実効再生産数が1週間で3回以上1を上回った場合は練習の強度は上げないよう部で取り決めたのだ。その数値は8月中旬から1を下回り続け、下旬からは練習を再開。そのまま徐々に練習の強度を上げていった。
「練習を再開して集合した彼らを初めて見た時、『おぬしやるな』というくらい体ができあがっていました」(谷口HC)
再び集まった彼らを前に谷口HCは練習する意義をこう話した。
「今季は不安定なシーズンで試合があるかどうかもわからない。でも試合がどうであれ、40年近く続いているチームにあって、今日の練習、今月の練習が絶対将来に繋がるんだ」