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クラスターが発生したら、世間は僕たちを許さない…東大医学部アメフト部が苦悩の末にたどり着いた一戦
posted2020/12/20 17:01
text by
齋藤裕(Number編集部)Yu Saito
photograph by
Yu Saito
「責任を負えるのか」
2日ほど前に連絡を受け、他の6年生と話し合い、練習を止めるべきだと考えての忠告だった。前村は振り返る。
「もちろんガイドラインに沿って、各人2m以上距離を取るなど何もしていないに等しいような軽い練習をしていたんです。だからその練習で感染が広がるという心配はしてなかった。ただ、練習を続けていくにあたって、もしものときのリスクが大きすぎるのではないかと思いました。
当時、感染者数が増え、部活動のクラスター感染のニュースがたびたび報じられていました。その部員があたかも何も考えていない、愚か者のように叩かれるという状況だったんです。特に僕たちは東大の医学部生。クラスターが発生したら世間は許してくれません。そうなったら部活が崩壊してしまうんじゃないかと危機感に駆られていました」
「医学部生としての自覚」と言われたら
当時5~6年は、東大病院などでの臨床実習の最中にいた。感染症と対峙する医師たちが奮闘する最前線を目撃し、その緊張感を直に体験していた。
ただ、実習生には感染予防の対象として、コロナウイルス感染者の動線には触れないような実習が組まれた。あくまで医学部生として配慮される存在だった。
「部の活動はもちろん東大から許可が出ているんですけど、『医学部生としての自覚』と言われた時に、僕らは何もいえなくなってしまうところがあるんじゃないか、と。それでもう一回、部員で話しあおうと伝えました」
主将の八木はその指摘で気付かされた。
「わかってはいたんですけど、やはりどこか焦る部分があったんだと思います。当時は医科歯科リーグが再開するとイメージしていたので、目標の『優勝』にたどり着けるのか、また他のチームと同じ条件であっても、若返ったチームの自分たちは不利なのではないかということを考えていました」
コロナと同様に、対戦校の存在も見えない敵となって八木に襲いかかっていたのだ。