イチ流に触れてBACK NUMBER
「MLBはいま、コンテストをやっている」イチローが高校球児に伝えたかった“日本野球の美しさ”
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKYODO
posted2020/12/14 17:01
3日間にわたって智辯和歌山高校の球児を指導したイチロー。超イチ流の極意の数々を伝授した
「最近、高校野球をよく見るんです。野球をやっているんですよ。普段、メジャーリーグをよく見る。当然ですけど。メジャーリーグはいま、コンテストをやっているんですよ。どこまで飛ばせるか。野球とは言えないですよね。どうやって点を取るか。そういうふうにはとても見えない。高校野球にはそれが詰まっている。面白いですよ。頭使いますから。(中略)だから、彼らと一緒に走ったり、投げたり、そういうアプローチは面白いなって。それはきっと僕にしか出来ないと思うんですよね。人ができないことにずっと僕はチャレンジしてきたので。今回もそうでありたいと思っています」
先が19年3月21日の引退会見の言葉であり、後が11月26日に神戸市で行われた日本新聞協会主催の講演での言葉である。
イチローが嘆き、憂えている問題
イチローさんが考える野球の素晴らしさとは、一球一球で変化する状況を瞬時に把握し考える知恵比べと言える。その上で技術をもって結果に繋げる。イチローさんの野球哲学であり、自身でも実践し、結果に結びつけてきた。
それがどうであろう。昨今のメジャーリーグはスイングスピード、打球角度など「トラックマン」をはじめとするハイテク機器が導き出す数値で選手を評価するようになった。
守備でも野手のユニフォーム・パンツのポケットには、投手と打者の相関関係からはじき出された打球方向の分布図が示された“あんちょこ”がしのばせてある。選手は状況ごとにそのあんちょこを確認することを命令され、そのデータ通りにポジションを変える。
本来は自分で備え、考え、表現する。これが野球であったはずだ。だが、今のメジャーリーグは、アイビーリーグを卒業した野球未経験の秀才たちがコンピュータとともに弾き出したデータが支配し、選手にはその通りに動くことを要求する。選手は高性能マシンへと特化していくばかりだ。
この流れは日本のプロ野球にも浸透し、アマチュア球界にも広がりつつある。イチローさんが今、最も嘆き、憂えている問題である。