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問題児バウアーと新たな活躍の場。“投球術の鬼”とダルビッシュ有の共演は実現するのか?
posted2020/11/21 11:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
2020年、ナ・リーグのサイ・ヤング賞は、結局トレヴァー・バウアーの手に渡った。ダルビッシュ有との競り合いも予想されたが、30人の投票者のうち27人がバウアーに1位票を投じて、行方は決まった。ダルビッシュも納得しているのではないか。
そのバウアーが、レッズの提示したQO(クォリファイング・オファー=1890万ドルで1年間の契約延長)を蹴ってFAの資格を行使することになった。
サイ・ヤング賞受賞投手がFAとなるのは、1992年のグレッグ・マダックス以来だ。あの年のマダックスは、カブスで20勝を挙げて防御率が2.18。カブスはシーズン中から契約延長を画策していたが、マダックスのエージェント、スコット・ボラスはカブスのオーナーだったラリー・ハイムズと折り合わず、10月にFAを宣言。その後、ブレーヴスと5年総額2800万ドルの契約を結んだのだった。
では、バウアー(91年1月生まれ)にはどんな道が開かれているだろうか。
バウアーを狙う球団は?
バウアーを必要とする球団は多い。先発の駒が足りないエンジェルスやブレーヴスは、喉から手が出るほど彼を欲しがっている。新オーナーに大富豪のスティーヴ・コーエン(ヘッジファンドで大儲けした資産家。美術品のコレクションだけで時価10億ドル。総資産は推定141億ドル。2013年にはインサイダー取引で18億ドルの罰金刑)を迎えたメッツは、財布の紐を思い切りゆるめてでも、バウアーを獲得したい。
パドレスの場合は、先発投手陣の柱マイク・クレヴィンジャーの離脱という大問題が発生した。11月17日にトミー・ジョン手術を受けたためだが、球団の本音は、彼のインディアンス時代の僚友バウアーを手に入れ、強力な二本柱を確立したかった、というところだろう。逆にいうと、バウアーを獲れない場合、パドレスの投手陣はピンチに陥る。二枚看板でドジャースの王朝を脅かそうという狙いは、大きく軌道修正を強いられることになる。
76歳の知将トニー・ラルーサを新監督に迎えるホワイトソックスも、バウアーを狙っている。ルーカス・ジオリートやダラス・カイケルが支える先発陣に彼が加われば、投手力は格段に上がる。ホゼ・アブレイユ(19年、彼の打球を脚に受けたことが原因で、バウアーはサイ・ヤング賞を逃したといわれた)を中軸とする打線も強力なだけに、チームとしてはかなり面白い。ただし、問題児(というより理論的妥協を嫌い、言い出したら後へ引かない)バウアーが、オールドスクール的名将のラルーサと折り合いがつくかどうか。
まだ交渉もはじまらないうちから、妄想ばかりが先走ってしまう。なかでも、チーム大改造をめざしているメッツの動きからは眼が離せない。