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マスクにソーシャルディスタンス。それでも、スポーツクライミングならではの光景が戻ってきた『Top of the Top 2020』 

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津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

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photograph byIchiro Tsugane

posted2020/11/20 11:00

マスクにソーシャルディスタンス。それでも、スポーツクライミングならではの光景が戻ってきた『Top of the Top 2020』<Number Web> photograph by Ichiro Tsugane

「めっちゃ楽しくて、自然と笑顔に」

 2日目はリードで、野口が決勝でただひとり完登を決めて貫禄を示した。2位は高校3年の平野夏海(国士舘高)、3位は高校2年の久米乃ノ華(市立船橋高)。男子は唯一の完登を記録した高田が、ボルダリングとの”ダブル”を達成。2位は楢崎明智(TEAM au)、3位は樋口純裕(佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟)が表彰台に立った。

 日本代表選手たちが高いレベルで競い合ったなか、際立ったのが選手たちの晴れやかで充実した表情だった。

「コロナ禍になってから初めての公式戦形式のボルダリングだったし、大会ならではの緊張感を忘れかけていたので、『これ、これ、この感じ!』っていう気持ちで、めっちゃ楽しくて、自然と笑顔になっていましたね」

 これは女子ボルダリングで最初の課題から決勝の最終課題まで笑顔をこぼした中村の言葉だが、すべての選手が中村と同じような心境だったのだろう。

 公式戦さながらの緊張感に身を置いた選手たちは、完登できなければ悔しさを滲ませながら、他の選手と「どう登ればよかったのか」と動きを確認し合い、後続の選手が課題に挑めば「ガンバ!、ガンバ!」の声を発した。マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを取りながらとはいえ、スポーツクライミングならではの光景が戻ってきた印象を受けた。

代表チームの一体感を培う場

 もうひとつ、日本代表チームとしての観点からも開催意義が見られた。

 スポーツクライミングは個人競技ではあるものの、国際大会で日本選手たちが活躍できる背景には代表チームの一体感がある。普段のトレーニングから時間や情報を共有し、切磋琢磨しながら互いに力を伸ばしてきた。

 この大会で代表ユニフォームを着た感想を「久しぶりで懐かしい感じ」と語った野口をはじめ、代表経験の多い選手にとって⽇本代表チームは我が家同然の場所。だが、新たに代表入りした選手には敷居の高さがある。

 それを例年なら国際大会の海外遠征を通じて我が家のような距離感に縮めていくのだが、今年はその機会がなかった。安井ヘッドコーチは「今回の開催は、それに代わる場としての狙いもあった」と明かす。

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