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プロ野球「ドラフト7位」から光った“下克上”選手列伝 打率3割3分の楽天2年目・小郷裕哉はどうなる?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2020/11/03 11:02
岡山・関西高校、立正大を経て、19年に楽天入りした小郷裕哉。大学時代は明治神宮大会で全国制覇を経験している
小郷が大事にする『あいうえお精神』とは?
そこに小郷の名も刻まれるかもしれないと、期待感が膨らむ。
なぜなら、今季のパフォーマンスを見る限り、「心技体」すべてにおいて、準備が整いつつあると感じてならないからだ。
まずは「心」。小郷の意思表明は、外野用グラブに刺繍されている。
『敢為』と『あいうえお精神』。
困難に屈することなく目標に立ち向かう――そういった意味の『敢為』を、関西高校時代に江浦滋泰監督から学んで以降、「座右の銘みたいなものです」と小郷は胸に刻む。
もうひとつの『あいうえお精神』は、それぞれの言葉の頭文字から取った語呂合わせだ。
あ……『愛』(愛情を持って人と接する)
い……『命』(体を大事にする)
う……『運』(運を引き寄せる努力をする)
え……『縁』(出会いを大切にする)
お……『恩』(愛、命、運、縁に感謝し、恩返しの気持ちを忘れない)
この精神は、小郷が立正大時代に「恩人からいただいた」と教えてくれた。これらの「心」がブレないからこそ、小郷は自身が掲げたように思い切りプレーできているわけだ。
「ここ数年で一番痩せている」今季活躍のウラで……
なにより彼は、貪欲である。とりわけ技術向上には余念がない。
ひとつに、春季キャンプで励んでいた、打撃フォームの微調整が挙げられる。
最も意識的に取り組んでいたのが、股関節の使い方だった。左打者の小郷にとって軸足となる左足を安定させるために、股関節を使ってしっかりと重心を乗せる。右足を踏み出す際、小郷いわく「股関節の左側を前にぶつけるイメージ」で、一気に蓄えた力を放出させるようにスイングに入る。そうすることによって、より強い打球が放てるのだという。キャンプ後の実戦に突入する頃には、「フォームがだいぶ安定してきました」と、手応えをにじませていたものである。
頭で思い描いていた形の具現化は、体がシャープになったこととも無関係ではない。
入団当初は「動けるデブ」と自嘲気味に評していた小郷だが、昨年オフから栄養を効率的に体内へ吸収するべく、夕食の量を減らすなど体質改善に踏み切った。現在の体重は82kg。「ここ数年で一番痩せている」のだと、少し誇らしげに話していた。
揺るぎない「心」が、技と体を進化させる。試合でのパフォーマンスは上々。そうはいっても、レギュラーへの足掛かりをほんの少し掴んだに過ぎない。
同期入団だけを見渡しても、1位の外野手・辰己涼介を筆頭に、2位の捕手・太田光、4位の投手・弓削隼人、6位の内野手・渡邊佳明と、1年目から着実に一軍経験を積む有望株が揃う。楽天「黄金世代」の可能性を秘めた猛者たちと、小郷はしのぎを削り合い、確固たる地位を築いていかなければならない。
ドラフト7位からの下克上。その道は、まだ始まったばかり。
小郷裕哉はロマンを追い求め、楽天で豊潤なプロ野球人生を綴る。