Number ExBACK NUMBER
語感はホルモン、歌詞はaikoのように……YOASOBIが明かす「曲にしてみたい“あの名作”」
text by
別冊文藝春秋編集部Bessatsu Bungeishunju
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2020/10/17 11:00
ボカロPとしても活躍するAyaseとシンガーソングライター・ikuraが結成したYOASOBI
「夜に駆ける」は自殺を図る少女の話で、テーマ自体は、僕がVOCALOID曲として作った「ラストリゾート」と通じる部分があります。「ラストリゾート」は、自分自身が精神的に追い詰められていたときに、死んでしまっていたかもしれない僕自身のアナザーストーリーとして書きました。一方、「夜に駆ける」は自殺願望のある少女からは少し距離をおいた視点で話が進みます。このように、原作小説に登場人物がいることで、同じテーマでも違った切り口で表現できるようになりました。
僕はシリアスなテーマであればあるほど、曲調はキャッチーなものにすることを心がけています。グロテスクなものを直接的に表現することも避けたい。でも、内包されたえぐみにはある種の美しさを感じます。聴いてくださっている方には、ビビッドな表現に覆い隠されたダークなものを見つけたときの、ぞわっとする感覚を楽しんでほしいです。
――ikuraさんは歌うときに、原作のイメージはどのくらい意識されますか?
ikura 原作小説の味わいをそのまま知ってもらいたいという思いと、音楽に翻案したことによる広がりを楽しんでほしいという気持ち、どちらもあります。バランスには悩みますね。私ができるのは主人公の心情を代弁すること。とにかく原作を読みこんでから歌っています。声質も原作にあわせ、登場人物を意識して変えています。「夜に駆ける」は男性視点の物語なので中性的な声で、「ハルジオン」は恋する女の子のお話なので柔らかい声を意識したり。小説内での主人公の心情の変化に寄り添えるよう、曲の途中でドラマチックに歌い方を変えたりもしています。
YOASOBIが「影響を受けたアーティスト」は?
――おふたりの音楽的ルーツについても教えてください。
Ayase 小学生のときにテレビでEXILEさんを観たのが、僕の音楽への入り口でした。以降はaikoさんやスキマスイッチさんなど、J-POPの最前線にいらっしゃるアーティストを聴いていて。中学生のときは、マキシマム ザ ホルモンさんに夢中でした。それまでぼんやりと抱いていた歌手になりたいという思いが、「バンドのボーカルをやりたい」という具体的なものに変わったのもその頃です。YOASOBIの歌は語感がキャッチーだと評して頂くことが多いのですが、母音やリリックに拘っているのは、マキシマム ザ ホルモンさんの影響が大きいです。
ikura 私は幼少期からディズニー・チャンネルを観て育ちました。特に「ハイスクール・ミュージカル」(ディズニー・チャンネルオリジナルのミュージカル映画シリーズ)がお気に入りで。「ハイスクール・ミュージカル」に出演していたアーティストを追いかけるようになり、そこから洋楽にどっぷりと浸りました。中学のときはテイラー・スウィフトさん。YUIさんのベストアルバムも繰り返し聴いていましたね。アコースティックやカントリーが私の原点です。