オリンピックPRESSBACK NUMBER
ドラクエとコラボした決勝戦って? 全日本フェンシング選手権の“魅せる”演出がすごい
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byJapan Fencing Federation
posted2020/09/30 11:30
男子エペ決勝ではRPG「ドラゴンクエストウォーク」とコラボし、リモート配信観戦の視聴者をワクワクさせた
「ここにいる選手だけでは……」
リモート観戦を逆手に取った“魅せる”演出。万全の準備と対策で行われた感染予防。そして、敗れた悔しさも抱えながら、皆が皆、今できることをやり尽くす。手探りの中で成し遂げられた、新しい全日本選手権。
5年ぶり6度目、女子エペ選手として最多回数となる優勝を飾った佐藤が言った。
「負けて悔しい思いがありながら、頼まれたわけでもなく選手が解説をしたり、自ら行動してくれたのは、日本フェンシングがチームとして切磋琢磨してやっている証拠。来年は私がここに立つんだ、という思いでみんなが手伝ってくれたと思うし、ここ(決勝)にいる選手だけでは、ここまで試合を盛り上げられなかったと思います」
これまでの当たり前を覆し、これからに向け新たな一歩を刻む。嘆くばかりでなく、今できること。それは、これからのフェンシング界、スポーツ界に向け「NEW STANDARD」を掲げた新たな挑戦であり、その成果が表れたのは、運営面に留まらない。
17歳小久保など目立った10代の躍進
競技結果へと目を向ければ、男子サーブルで17歳の小久保真旺(星槎国際高川口)がこの種目では最年少優勝を遂げたのを筆頭に、女子エペ準優勝の寺山珠樹(日大)、男子フルーレでは16歳の飯村一輝(龍谷大平安高)が敷根崇裕(NEXUS)を破って3位に入り、女子フルーレでは妹の飯村彩乃(龍谷大平安中)が日本代表の東莉央(日体大)を初戦で破りベスト8進出を果たすなど、近い未来を担うであろう10代選手の躍進が目立った。
その一方で、34歳で6度目の優勝を飾った佐藤や、最終種目の男子エペを制したのは36歳の坂本圭右(自衛隊体育学校)。すでに現役は引退し、近代五種のコーチを務めながら「引退試合」として臨んだ坂本は、試合後に息を切らしながらこう言った。
「これ以上の舞台はないので、きれいに降ります。自分が行けなかったオリンピックの夢は、宇山(賢)や(山田)優、見延(和靖)に託して、いちファンとして応援します」
これまでとこれから。嘆くばかりでなく、一歩でも前に進む。全日本フェンシング選手権で見せた新たな観戦、運営方式は他のスポーツ現場において、これからにつながる多くのヒントが含まれているはずだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。