話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
大久保嘉人のギラギラ感が弱い 「気持ちが切れたらいつでもやめる覚悟」はどうなるのか
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/09/17 11:30
9月13日、ザスパクサツ群馬戦に出場した大久保嘉人
山本理仁が倒されて、PKを得たのだ。キッカーは、大久保だった。2-1と1点リードされている中、ここで決めれば同点に追いつき、さらにヴェルディでの初ゴールとなる。決めてくれるだろうと単純に思っていたが、不安がないわけではなかった。
かつて大久保は、PKは外すことしか考えていないと語っていたからだ。
「PKはいつも外すことしか考えていない。ゴールを決めて喜ぶイメージを蹴る前に考えたら絶対にダメ。外す、というスタンスのほうがリラックスできる」
今回もその気持ちで蹴ったのだろうか。
冷静に中央の上を狙ったが、GKが手を伸ばしてボールに触れ、バーに当たって外れた。同点、初ゴールのチャンスを逃した大久保は、ピッチに両膝をつき、さすがにショックを隠しきれなかった。そして、このPKがこの試合の勝負の分かれ目になった。
大久保は、後半32分にピッチを後にした。同点のチャンスを逸したヴェルディは、後半37分、さらに追加点を許し、試合を失った。
“点を取るために妥協しない男”はどこへ……?
ヴェルディのサッカーは、独特のリズムがある。
川崎F時代の大久保の動きは無駄がなく、シャープだった。監督の戦術を受けてというよりも周囲の選手との関係性を考えて自由にプレーしていた。それがハマった。だが、今はまだ考えることが多いようで、自分の中で消化できていないといった感じに見える。そのせいか、プレーがどこかおとなしい。
川崎FやFC東京では「前にもっとパスを出せよ」と周囲に要求し、磐田では「びびってないで積極的に戦え」と、味方を叱咤した。普段は優しいが、点を取るために妥協しない男はピッチ上では獰猛なファイターに豹変する。そんな男の迫力に経験のない若い選手はオドオドしてしまいそうだが、そんなことはお構いなく大久保は要求する。応えられない選手には要求しないのだが、それが大久保なりの愛情の示し方でもある。
だが、激しく要求することも、叱咤する光景もこの試合ではほとんどなかった。よく言えば冷静だが、どこか淡泊で淡々とプレーしていた。もっというと、かつて体から発散されていたギラギラ感が弱くなっていた。ヴェルディのような若いチーム、クラブユース出身が多いチームは、どこか仲良し的なムードが流れがちでもある。その中で大久保に求められているのは、試合はもちろん、練習中から激しくお互いに求めあうピリピリした雰囲気を生み出すことだろう。その厳しさは、強いチームには身についているものだ。