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“異色の部活”力士!? 園芸部出身の26歳「新関脇」に注目して欲しい“3つの理由”
posted2020/09/12 08:00
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph by
Kyodo News
いよいよ、待ちに待った9月場所が幕を開ける。先場所で感動の復活優勝を遂げた照ノ富士をはじめ、賜杯のリベンジに燃える大関・朝乃山、果敢に優勝争いに加わった両関脇の御嶽海・正代など、注目力士は多い。そんななか、今回は新関脇として9月場所に臨む、追手風部屋の大栄翔にスポットを当てる。ここ1年ほどでますます頭角を現してきた26歳。その強さの秘密に迫る。
大栄翔の魅力(その1):まっすぐな突き押し
気迫の押し相撲が武器の大栄翔。アマチュアまでは四つに組んで取ることが多かったが、現在の師匠である追手風親方から「高校生のなかでは体が大きくても、プロに入ったら小さいほうなんだから、突っ張っていったほうがいい」とアドバイスを受けた。
それからは、稽古場でも徹底的に四つにならないよう取り組んできた。自身でも、「番付が徐々に上がるにつれて、本場所の土俵でも四つ相撲は少なくなりましたね。そういう部分では、成長できているかなと思います」と分析。
先場所は、横綱・白鵬を圧巻の相撲で下した。立ち合いから思い切りぶつかり、相手をいなしたところをすかさず果敢に攻めていって、押し出し。勝った相撲では、どれも立ち合いで頭からぶつかり、前へ前へと突き進んで自分の相撲を取り切れており、相手にいなされても落ちない。4月の取材時には「攻めていった土俵際での逆転負けも多いので、そのあたりを克服したいと思っています」と話していたが、たしかにそういった場面は少なくなってきた。
さらに、7日目に対戦した隠岐の海との一戦では、自分の形でない四つに組むも、きっちりと腰を落として寄り切った。自分の長所を出し切っただけでなく、高い対応力も見せつけた7月場所では、見事11勝を挙げ、殊勲賞を獲得。新関脇として挑む今場所も、大きな期待が寄せられている。
大栄翔の魅力(その2):安定したメンタル
小学1年生から、埼玉県朝霞市のクラブで相撲を習い始め、以来スポーツ歴は相撲一筋の大栄翔。「やめたいと思ったことはないですね。昔から、稽古はきついけど頑張りたいし、もっと強くなりたいと思っていました。根本として、相撲が好きなんだと思います」と語る。
2年ほど前、彼のお母さんとお兄さんに取材をさせていただいたことがある。「(息子の取組を)見ていると緊張するのよねと言ったら『相撲取っているのはおふくろじゃないのに、なんで緊張するのか意味わかんない(笑)。俺も緊張しないのに』と言われたことがありました」と笑うお母さんの言葉に裏付けられるように、彼の強さの一つは、その安定したメンタル面にあると思われる。
名門・埼玉栄高校相撲部へ入部後、1・2年生では思うような力を発揮できなかった大栄翔。しかし、彼はそこで腐らなかった。それまでの努力から、稽古は裏切らないことを身に染みて実感していたのだ。3年生でようやくレギュラーの座をつかむと、インターハイ団体戦で準優勝、個人戦でも3位に入賞した。山田道紀監督からは、「レギュラーをとれなくても、腐らずに頑張り続けて3年生で活躍した勇人は、同じ境遇の後輩に対するいいお手本だった」と言ってもらったそう(※大栄翔の本名は高西勇人)。
持ち合わせた素質に加え、こうした地道な努力の積み重ねが、自らも気づかぬうちに自信という大きな糧となり、その精神面を支えているのだろう。プロの土俵でも、自分のできることを精一杯相手にぶつけることに集中し、淡々と星を重ねる姿が非常に印象的である。