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大関貴景勝が“親方”の娘と婚約 相撲部屋のおかみさんとは?
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byJiji Press
posted2020/09/10 17:00
今年3月、大関昇進の伝達式を終え、タイを手に笑顔の朝乃山(左)。中央が高砂親方、右が高砂部屋のおかみさん
口紅も塗らずに割烹着姿で、ちゃんこ番と一緒にちゃんこ作りをし、週に2回は河岸まで、大量の食材を買い出しに出掛ける生活。血気盛んな”荒くれ者”と、24時間365日、同じ屋根の下で暮らしていた。
「おかみって、謝るのも大事な仕事だったのよ。いや、細かいことはもう忘れちゃいましたけどね」と、天上に目を遣った。部屋を逃げ出した弟子を捜し回り、交番へ。酒に酔って暴れての警察沙汰や女性とのトラブル処理、ケンカの仲裁ーー。
「それこそ、うちの子たちがどこで誰に迷惑掛けているかわからないから、人を見ると、とにかく頭を下げていたわねぇ」
往時の苦労を想い出として、懐かしんでもいたものだった。
平成時代になり、時を経るに連れて、角界の門を叩く青少年たちの性質も”おとなしく”なってゆく。組織としての相撲協会や各部屋での規律も、今や一般社会以上に厳しい面もあるようだ。
令和の時代を迎えた今、相撲部屋の在り方も、ファンから求められる”力士像”も変化しつつある。
「この部屋では、おかみに掃除させるのか?」
その元横綱朝潮が育てた、愛弟子の大関朝潮ーー夫人の長岡恵さんが相撲部屋のおかみさんとなった当時、まだ26歳という若さだったという。おかみ業経験も浅い頃のこと。ある朝、部屋の玄関前を掃除していた恵さんは、たまたま通りがかった関係者に驚かれたという。
「この部屋では、おかみに掃除させるのか?」
ちゃんこ作りや掃除、洗濯、すべてが修行のうちとされ、力士たちの手でなされるのが相撲界だ。恵さんはいう。
「ちょっと気になったから、ササッと玄関先を掃いていただけなんですが、『おかみに掃除をさせてる』と誤解されてしまうと、部屋のためにも彼らのためにもならないんですね……。私がクリーニング屋さんに服を取りに行こうとした時、たまたま弟子が『僕も浴衣を取りに行くので、ついでに受け取ってきますよ』と気を利かせてくれたことがあるんです。でも、『あの部屋のおかみは弟子を付け人代わりに使っている』などと思われるかもしれないので、躊躇しちゃう。その逆で、私が『ついでだから』と、弟子の浴衣を受け取りに行っても『おかみを使ってるのか』と言われかねない。お互いに気持ちは嬉しいし、どちらか一人が行ったほうが合理的なんですけど、『じゃあ、一緒にクリーニング屋さんに行こうか?』って(笑)」
30人の男子生徒を受け持つ女性教師のごとく
相撲部屋のおかみさんは、けして”職業”ではなく、あくまでも師匠夫人の立場として存在する。しかし、その仕事ぶりと多忙さには目を見張る。