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大関貴景勝が“親方”の娘と婚約 相撲部屋のおかみさんとは? 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byJiji Press

posted2020/09/10 17:00

大関貴景勝が“親方”の娘と婚約 相撲部屋のおかみさんとは?<Number Web> photograph by Jiji Press

今年3月、大関昇進の伝達式を終え、タイを手に笑顔の朝乃山(左)。中央が高砂親方、右が高砂部屋のおかみさん

 東京のほか、大阪、名古屋、九州の地方場所へは、各後援会や現地の宿舎関係者に挨拶に飛ぶ。全国に散る後援者たちとの付き合いや、夫に代わって冠婚葬祭に参列することも多い。夥しい数のお中元やお歳暮の手配はもちろん、弟子の病院の付き添いや送り迎え、時には母親代わりとして、手術に立ち合うこともある。毎場所の千秋楽パーティではホステス役として、飲まず食わずでの接待。日々、大量のゴミを出したり、部屋周辺に報道陣が集まることもあり、近隣に常に気を遣い、町内会などの付き合いも密だ。

 政治家の妻しかり、銀座のクラブママもかくや、30人の男子生徒を受け持つ女性教師のごとくーーなのだった。

 忘れてはならないのが、「妻として、母として家庭を守ること」でもある。関取が現役引退し、相撲部屋を持って師匠となるのは、年齢的に30代後半となる場合が多い。1年の半分は地方場所や巡業で自宅を留守にする夫でもあり、妻は、なかば”ワンオペ”での子育て状態にもなる。

「男の、男による男のための相撲界」 それぞれのおかみさんの形

 来年3月に定年退職を迎える峰崎親方(元三杉磯)夫人の上沢婦記子さんが相撲部屋おかみとなった当時は、ふたりの息子の子育てをする時期と重なったという。

「今も、引退した子たちが部屋に顔を出してくれるんですが、もう顔を見ると泣けてしまうんですね。『あの頃は私も子育てで忙しく、何もしてあげられなくて、本当にごめんね』って……。『あの時、もし、もっと私が関わって話を聞いてあげていたら、彼はこんなに早く引退しないでも済んだのかもしれない』などと、つい思い返してしまうんです。だから定年までに残された時間、少しでも今いる彼らの助けになれればーーと、相撲界では怒られちゃうかもしれないけれど(笑)ーーちゃんこ場に立って手伝ってもいるんです」

 独身の師匠もおり、部屋付き親方やベテランマネージャーが補佐する部屋もある。「男の、男による男のための相撲界」で、女性は必ずしも存在しなくてよい。おかみさんたちは、十二分にそれを知っている。

「でも、いないよりはいたほうがいいよね(笑)」

「自分のできることを探して、なるべく邪魔にならないようにしています」

「うちの親方は厳しいし、まったくお相撲さんのことを褒めないから、些細なことでも私が大げさに褒めてるんですよ~!」

 おかみさんに定義はなく、相撲部屋の数だけ、それぞれのおかみさんの形がある。

 落語など芸界の「内儀さん」ではなく、料亭や旅館の「女将さん」でもない。相撲部屋には、時に蔭や日向になり、闘う男たちにやわらかな笑顔を向ける「おかみさん」がいる。

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