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昇格へ名乗りを上げる長崎の、
接戦をモノにするマルチ戦略。
posted2020/08/01 08:30
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
J.LEAGUE
強い。いや、勝負強いと言うべきか。群雄割拠のJ2リーグでV・ファーレン長崎がしたたかに勝ち点を積み上げている。
過酷な連戦を強いられる過密日程も何のその。再開後の5試合を無敗(4勝1分け)で乗り切り、あっさりと首位に立った。
攻守に敵を圧倒した試合は1つもない。4勝のうち3勝は1点差勝ちだ。再開前の唯一の試合(栃木との開幕戦)も1-0である。競り合いにめっぽう強い。
際立つのは接戦をモノにしていくマルチ戦略だ。
布陣や人選、戦法から勝負どころの交代策に至るまでオプションの幅が実に広い。戦況に応じて、自在に色を変えながら、勝つための「差」をつくり出していく。
何があろうと自分たちのスタイルを貫く――という耽美主義的な構えが1ミリもない。攻撃的にも、守備的にも立ち回る。勝つために使える道具は全部使うわけだ。
堅守速攻への特化に見切りをつけて。
「そもそも、きれいに勝とうとは思っていない」
手倉森誠監督は言う。型への執着がないから、これという負けパターンも存在しない。逆転勝ちが二度あるのも、機に臨み、変に応ずる懐の深さゆえだろう。
勝機をたぐり寄せる采配の手際も鮮やか。再開後の総得点は9だが、このうち6点までが交代選手によるものだ。ズバリ的中のオンパレードなのだから恐れ入る。
開幕戦を含めた6試合の得点者は実に8人を数え、速攻からセットプレーまで得点パターンも実に多彩。そのうえ、エリア内の巨人イバルボにボールを集め、その老練なポストワークから周囲の選手が得点を重ねる「決め手」まで確立しつつある。助っ人の使い道、正しい生かし方を心得たチームの強みだ。
就任1年目の昨季は12位に低迷。そこで堅守速攻の特化型に見切りをつけ、汎用性の高いゲームモデルを構築し、選手層を厚くして、手持ちの駒をフルに使うマルチ戦略へ大きく舵を切った。
「連戦はむしろ望むところ。我々の強みが最大限に生きる」
指揮官は自信を隠さない。事実、その言葉どおりの戦いを演じてもいる。今季こそJ1昇格へ。その資格は十分にありそうだ。