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「スポーツとしての大食い」の魅力。
漫画でわかる意外な緻密さと奥深さ。 

text by

旨井旬一(マンガナイト)

旨井旬一(マンガナイト)Shunichi Umai

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photograph bySHIGERU TSUCHIYAMA/NIHONBUNGEISHA

posted2020/07/12 08:00

「スポーツとしての大食い」の魅力。漫画でわかる意外な緻密さと奥深さ。<Number Web> photograph by SHIGERU TSUCHIYAMA/NIHONBUNGEISHA

大食いはカジュアルなものから競技まで幅広く日本に定着している。

邪道喰いと正道喰い。

 スポーツとしての駆け引きを描くうえで、作品の紹介に欠かせない対立軸が「正道喰い」と「邪道喰い」と呼ばれる2つの食べ方だ。

 主人公の大原満太郎やハンター錠二らは、料理本来の食べ方で味わいながら競う「正道喰い」。

 一方で「邪道喰い」は食材を液体に混ぜて飲み込むことが多い。主人公たちは「腹を膨らませないために水は極力少なく」と心得ているのに反し、水や湯でガブガブ流し込むのが特徴だ。 

 理屈では「正道喰い」が強そうだが、だが、その過程では実に繊細な内容が繰り広げられる。

 主人公が初めて「邪道喰い」との対決を演じる相手は「たこ焼き100個を5分で食った男」横川。丼にたこ焼きと湯を入れて流し込んでの記録だ。 

 その横川との戦いの種目は、豚マン。横川は中身を皿に出して食べた後、皮だけをドンブリに入れて湯で流し込み、15分で30個を食べて見せる。

大食いでも、美味しそうなことが大事。

 しかし2度目の勝負で、主人公は豚マンを半分に切って中身を出して冷ましてから、詰め直してちゃんと豚マンの姿に戻してから食べるのだ。「邪道返し」と名付けられたその方法で30分で42個と4分の1を食べて見事に勝利した。 

 本作品は2004年10月から2009年2月まで217話が連載され、単行本は24巻まで発売されている。グルメ漫画は専門的な知識が必要になるため長期連載が難しいジャンルで、20巻を超えるタイトルは多くない。

 その連載を支えてきた1つが、「おいしそうな料理と食べ方」にある。

 食事をおいしそうに描くことは、実に難しい。本作品は「邪道喰い」の一部を除いて、とてもきれいで美味そうな描写が群を抜いている。米や麺の細かい表現から、食材の照り、噛み跡までもが丁寧に描かれている。

【次ページ】 勝つのは理論か、根性か? 

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