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「スポーツとしての大食い」の魅力。
漫画でわかる意外な緻密さと奥深さ。
text by
旨井旬一(マンガナイト)Shunichi Umai
photograph bySHIGERU TSUCHIYAMA/NIHONBUNGEISHA
posted2020/07/12 08:00
大食いはカジュアルなものから競技まで幅広く日本に定着している。
勝つのは理論か、根性か?
登場する各キャラクターの得意技にも、裏付けのあるものが多い。
「二丁喰い」は、両手に箸を持って同時に食材を持ち、交互に食べる技だ。ラーメンやたこ焼きなどの熱い料理の時は、片手で冷ましている間に、もう一方を食べ進める。素麺のように冷たい食材でも、振ることで余分なつゆを落とす効果がある。
どら焼きの大食いで味に飽きず胃を休めるため大根おろしを持ち込んだり、太巻き寿司での海苔対策として包丁で輪切りにした後に霧吹きで海苔を柔らかくしたりするなど、名もなきテクニックが次々と登場する。
ただ最終的には、自分の限界と向き合った鍛錬が実を結ぶようだ。大原と錠二が公式戦で激突した太巻き寿司対決では途中、目隠しが登場して相手の状況が分からなくなった。他の対戦者が焦ってペースを乱す中、錠二はなんと指でリズムを刻んでペースを乱すことなく食べる技を披露。大原に僅差で勝利する。
そしてストーリーは、大食いの世界的なスポーツ組織が動き出すところで完結する。
大食いが市民権を得たら……。
『喰いしん坊!』の終了から1年半後。続編『大食い甲子園』(日本文芸社、著:土山しげる)が始まった。大食いについてはもう描き尽くしたのではないかという心配は、すぐに裏切られた。
大食いがスポーツとしての市民権を得た世界を舞台に、チームの絆で闘う「団体戦」をテーマに据えたのだ。
「正道喰い」と「邪道喰い」は今作でも登場するが、高校生の部活となり教育的な側面が強くなったことで、「邪道喰い」は「食指導」として減点の対象になった。
そのため精神面での駆け引きが増え、10分間での早食い勝負で相手の動揺を誘うために、手や口を忙しく動かして序盤から「スパート」をかけたふりをする、のような技も登場する。高校生たちが焦らず冷静に対応する難しさが描かれる。マラソンや駅伝にも通ずる駆け引きだ。
本作には『喰いしん坊!』の主人公・大原満太郎らしき人物や、ハンター錠二が登場し、世界観を共有している。作者の土山氏は後に、トラックドライバー時代のハンター錠二を描く『流浪のグルメ 東北めし』も発表し、それが遺作となった。