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鳥栖DF原輝綺、焦りからの解放。
「また違った自分を見せられそう」
 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byTakahito Ando

posted2020/06/30 07:00

鳥栖DF原輝綺、焦りからの解放。「また違った自分を見せられそう」<Number Web> photograph by Takahito Ando

大怪我を克服して、リーグ再開へ向けた準備を進める鳥栖・原輝綺。目標にしていた東京五輪は延期となったが、改めて自分を見つめ直す時間となった。

手術も東京五輪も延期に

 覚悟を決めた2月、彼だけでなく世間は一気に激変を強いられることになった。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めると、たちまち日本も未曾有の事態に見舞われた。その影響で、施術3日前に手術自体が延期。そして、3月24日には東京オリンピック・パラリンピックの延期も決まった。

「手術日が未定となって、さらに東京五輪が1年延期になって、もう何が何だか分からない状態でしたね。でも、そこで自分が焦りすぎて周りが見えていないことを感じたんです。Jリーグも中断になり、手術を執刀する予定だった先生も『手術が必ず必要なものではない』と言っていたこともあり、ここは無理せずにリハビリに集中して治していこうと手術を回避することにしました。

 もちろん(東京五輪が)延期したことが良かったとは思っていません。『自分は東京五輪に行けなかったはずの人間』と思っているからこそ、延期になったから、(Jリーグが)中断しているからではなく、冷静に自分自身と向き合い、今何をすべきか考えることが大事だと思いました。もっと先のことを考えてサッカーをしていきたいと思うようになりましたね」

 2度目の離脱期間は早期復帰への強迫観念が消え、これまで以上に自分と向き合うことができた。

原が再び磨いた感覚とは。

「昨季、自分にとって初めての移籍で鳥栖に来て、五輪代表を含めるとサイドバック、ボランチ、サイドハーフといろんなポジションをこなした。その時に『もっと立ち位置にこだわってやらないとどのポジションでも生き残っていけない』と考えるようになったんです。それ以降、同じポジションの選手の映像を国内外含めて見るようになったし、よりサッカーを理解するために戦術の勉強をしました。

 今、自分がどのエリアにいて、どのエリアに移動すれば有効なのか、どのエリアのスペースを活用すればいいのかという『エリア感覚』を養っておけば、どのポジションに入ってもプレーの選択肢や判断の質が上がると思ったんです。それを1年かけて実践してきて、ようやく手応えを掴んできたときの怪我。だから2回目の離脱の時間を使って、もう一度この『エリア感覚』を磨き直そうと思いました」

 より局面を切り取って他の選手のプレー映像を観察。練習試合を外から見る時も同じポジションの選手の動きやチーム全体の動き、さらには金明輝監督の指示にも耳を傾けた。

「今年は明輝さんが本当にやりたいサッカーを表現しようとしている。だからこそ、明輝さんの言っていることの意味、どのタイミングで何を訴えたいのかを理解することが重要。その指示を頭に入れて、もう一度全体練習を見ると、エラーの部分がよくわかるんです。戦術的にはこうしたいけど、あのポジションの選手がこの動きができていないなとか、ここを修正したいんだろうなと分かるんです。じゃあ、そうなったときに自分はどうプレーをすべきか、どこにポジションを取ればいいかを考えていました」

 復帰した時にすぐに戦力になれるように、チームにおける自分の立ち位置を頭に入れながら、自らのフットボールインテリジェンスに磨きをかけ続けた。同時にプロサッカー選手としての自分自身、クラブの中での存在意義に目を向けられるようになった。

【次ページ】 プレーも性格も目立つことを嫌う。

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