“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
鳥栖DF原輝綺、焦りからの解放。
「また違った自分を見せられそう」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/06/30 07:00
大怪我を克服して、リーグ再開へ向けた準備を進める鳥栖・原輝綺。目標にしていた東京五輪は延期となったが、改めて自分を見つめ直す時間となった。
プレーも性格も目立つことを嫌う。
彼はプレーと同様に、オフ・ザ・ピッチでも目立つことを嫌っていた。クラブのイベントなどに参加をするのは得意な方ではないが、最近は動画企画などにも頻繁に登場するようになった。それもこの期間での心境の変化によるものだった。
「鳥栖ではまだ2年目ですが、大幅に選手が入れ替わったことでチームは一気に若返った。後輩たちがよりやりやすい環境を作らなければいけないと思ったので、1年目のように寡黙でいたらダメだなと思うようになったんです。それにこのコロナ禍でサポーターやファンの皆さんが試合はおろか、練習すら見ることができない状況になってしまったし、さらにはクラブ経営に関する報道が出たりと、ネガティブに捉えられてしまう要素があまりにも多かった。
それでも、僕らはこうしてプレーに集中をさせてもらっているのですから、僕らが立ち止まってはいけない。僕ら選手はフロントの人だったり、スタッフだったり、サポートをしてくれる人、ファン・サポーターの人たちがいて成り立っていると改めて感じたんです。中でもファン・サポーターの人たちにしたら寂しい毎日というか、辛いと思う時もあるかもしれないと僕の中でも思ったので、クラブから提案されたことはきちんとやって、ちゃんと自分の元気な姿を見せることも大事だなと。少しでもファン・サポーターの皆さんの気晴らしになってくれたら、サガン鳥栖というクラブに興味を持ち続けてくれたら、サッカーを好きでいてくれたらと思うようになりました。
僕は性格的に目立ちたいという思いは一切ないですし、どちらかというと今でもそっとしといてもらいたいタイプなのは変わりませんが、そこはプロサッカー選手として生活をさせてもらっている以上、やるべきことはやらないといけない。前々から僕を応援してくれている人たちは、ちょっとでも僕がああやって出ることで元気を与えられるかと思うので、頼まれたこと限定ですが、引き受けています(笑)」
クラブと自分を常に客観的に見ながら、リハビリと、そして頭の中を鍛え上げることに全意識を傾けた。7カ月の歳月を経て、彼は今、強度の高いトレーニングをフルメニューこなしながら、完全復活に向けて着々と準備を進めている。
コンディションは「まだ」。
「正直なところ、まだ左足の腫れは完全に引いていませんし、万全のコンディションかと言われたら『まだ』という答えになります。でも、戦術的な理解度やプレーの質は手応えを感じています。頭の中にプレーの引き出しをきちんと明確に作れたことで、今はそのどれを選んで、どのタイミングで開くかに集中できています。
たとえば右サイドでマイボールになった時に、以前はすぐにサイドを変えてしまったり、セーフティーにやろうとしてしまっていましたが、状況によっては自分のところに一回ボールをつけてもらうことで、相手をより引きつけてパス交換をしてから展開とか、交換すると見せかけて飛ばして大きく展開をする選択肢が出来ました。寄せて散らす、散らして寄せるなど、自分の立ち位置と周りの立ち位置がわかる分、判断の引き出しが増えましたね」