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唯一無二のウォウォウォ!!
松崎しげると音楽とライオンズ。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/06/24 11:50
松崎しげると言えば西武ライオンズ、という印象は強い。
ベストナインを悩んで選んで。
総工費180億円をかけて行われている現在の改修工事でも、隙間をふさぐ完全ドーム化は見送られた。ウォウォウォの歌声はこれからも遠慮なく所沢の空に轟く。ひょっとしたらそれは“アウトドアな歌声を持つ人”への配慮であるのかもしれない。
「なんか、あるよねえ」とにやりとした松崎の顔、ひときわ白い歯は一体何を意味していたのだろう。
「“松崎しげる=色が黒い”の前に、ライオンズの歌っていうイメージがガツンとくると思うよ。この曲はもう自分のキャッチフレーズみたいになっている」
球団イベントやディナーショーで40年間歌い続けてきた(驚くべきことに70歳となっても40年前とキーは変わっていない)松崎にとって、いまでは西武ドームこそが聖地となった。
野村克也、田淵幸一、松沼博久、伊東勤、清原和博、潮崎哲也、西口文也、松坂大輔、A・カブレラ、牧田和久、岸孝之、外崎修汰、源田壮亮にいたるまで、どの時代の選手にも思い入れがあり、ベストナインを選ぶのも容易ではなかった。
「もうね、あまりに夢が多すぎて。夢見た選手が多すぎるじゃない」
その言葉がうそでないことは、松崎がインタビューに持ってきたA4の紙を見てよく分かった。そこにはびっしりと選手のリストが書き込まれ、幾通りものオーダーがずらっと並んでいた。ああでもない、こうでもないを何度も何度も繰り返して、ようやく出した結論。選考理由の熱弁は延々と続き、落選した選手への未練も容易には断ち切れなかった。
「オーダーを作ってから10回は見直した。だんだんワクワク感が出てきちゃって、自分で球場を描いてポジション別に並べてみたら、すっげえチーム! と思ってさ。俺はテレビゲームとかしないんだけど、このオーダーが組めるんだったらゲームをやってみたいよ。これが俺のね、夢のライオンズ」
優勝するごとに曲も日の目が当たる。
ベストナインを発表し終えてなお楽し気な松崎の様子を見ていたら、ずっと昔に後楽園球場にいた少年の顔が想像できた。ホットドッグに感激し、ONにサインをもらった少年もきっとこんな風に笑っていたのだ。
ようやく開幕にこぎつけた非常事態下の2020年シーズンで、ライオンズはリーグ3連覇に挑む。
「優勝するごとに『地平を駈ける獅子を見た』も日の目を見ていく。本拠地では勝つと必ず映像とともに流れるからね。その映像も今年新たに撮り直して、なかなか華やかなものになっている。面白いですよ」
日本野球機構は7月10日から無観客試合を解除する方針を示した。多くのファンが球場でその映像を見て、松崎の雄叫びを再び聴くことのできる日が少しずつ近づいている。