令和の野球探訪BACK NUMBER
日本野球に“早生まれ”が少ない理由。
野球界は最終目標をどこに置く?
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/05/30 20:00
子供たちにとって体格差は大きい。それによって試合に出る機会を失っては、可能性を狭めることになる。
成長の遅さは出場機会を奪う。
この中でも特に問題視されるのが「野球選手全体の生まれ月」だ。1年の12カ月を3カ月ずつに区切ると、本来その数字は25%前後ずつとなるはずだ。だが小学生時代に22.5%いた早生まれの選手は、高校生になると17.8%しかいない。つまり、それだけの選手たちが「野球を辞めている、もしくは、諦めてしまっている」と言える。
その原因は「出場機会」が大きい。もともと野球を始めた時に子供たちが「野球をする」というのは「試合をする」ことのはずだ。キャッチボールから入ることも多いが、校庭やグラウンドで仲間が集まればノックばかりをするのではなく、自分たちでルールを決めて試合を始めるだろう。
だが、少年野球チームに入った「成長の遅い子供たち」はその機会を奪われる。小中学生時代の競技では「成長の早さ(速さではない)」がモノを言う。4月生まれと3月生まれでは1年近い差がある。技術や素質も当然あるが、乱暴に言ってしまえば「体の大きな者が勝つ」。
ケガが多いのは4~6月生まれ。
また、早生まれの場合は、成長が伴っていない状態でプレーすることで怪我をすることも多い。ここまで聞くと4~6月生まれは良いことしかないようだが、そうではないと勝亦氏は言う。
「中学生のデータで言うと、ケガしている選手の数は、4~6月生まれの人数が多いです。ただし(試合に出られている選手が多いため)そもそもの母数が多いこと、(成長が早いため主要なポジションである)ピッチャー・キャッチャーの割合が多いことも要因となっています」
こうした出場過多による故障のリスクの他にも、成長が早いがゆえに活躍できていた選手が、その成長が止まったことにより苦悩する場合がある。「あの子は体格が良いから活躍できているけど、練習も好きでないし、技術も疎かなまま活躍できてしまっている」と、中学の指導者にオフレコで評されていた選手が高校で期待された活躍ができなかったことは筆者の取材経験でもあった。
また、早くから持て囃されすぎると、こうした周囲の過剰な期待ゆえの「伸び悩んだ」、「努力が足りない」という声に苦しめられることもある。