令和の野球探訪BACK NUMBER
日本野球に“早生まれ”が少ない理由。
野球界は最終目標をどこに置く?
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/05/30 20:00
子供たちにとって体格差は大きい。それによって試合に出る機会を失っては、可能性を狭めることになる。
世代別の侍ジャパンでさえも。
例えばサッカーであればトップチームの下にユースチームがある。ユースの最大目的は「トップチームに良い選手を送り出す」ことであり、早熟な選手たちで「目の前の試合に勝つ」ことではない。
だが野球のように組織がそれぞれバラバラであれば、それぞれのカテゴリーで「その場限りでの勝利」が極めて高い比重になるのは当然だ。高校野球で言えば甲子園に出るか出ないかに自身の職がかかっている監督も多いだろう。
また世代別のトップチームである侍ジャパンも連盟の管轄の違いから最強チームを編成できていない。あらゆるスポーツの区切りは年度や学年ではなく年区切りなので、例えばU-18代表であればプロや大学、社会人に進んだ早生まれの選手たちも招集できるがしていない。U-15代表であれば高校1年生の早生まれの選手たちを本来は招集できる(※U-12代表の硬式だけは、小中を横断した組織がリトルおよびリトルシニア、 ボーイズリーグとあるため中学1年生の早生まれ選手も代表に選出されている)。
今回の有事でも明らかになっているように、連盟間の連携や一体となった行動は今後の日本野球界の発展には欠かせないことだろう。
子供に教える3つの要素。
構造上の問題を言えばキリがないが、では子供たちの身近にいる大人たちにはどんなことができるだろう。
再び勝亦氏に聞く。まずはシンプルだが声掛けだ。
「“こういう状態だから試合に出せないけど、上のカテゴリに行けば必ず伸びるから”、“体は小さいけど頑張っているな”といった、ほんの少しの声掛けで勇気づけられる子供はいると思います」
次に成長を実感できる数値だ。
「野球は投げる・打つ・走る・捕るなどたくさんの動きがあるので、それらを体の数値とともにすべて記録化できれば、“何が伸びているのか”だとか、かなりいろいろなものが見えてくるのではないかと思います」
そして最も重要なのが「大人たちの子供に教える順番」だ。勝亦氏は、簡単な指標を作っていきたいと考えている。その順番は
1)安心・安全に行えること
2)競技(ゲーム)を楽しんでもらうこと
3)上達することを楽しんでもらうこと
この3段階を経た後に「チームの勝利や目標に向かうこと、協力しあう」ことを指導していくのが理想だが、「今はすべてをすっ飛ばして“チームの勝利”を考える指導者が多い」と話す。前述した小柄な打者の待球作戦などはまさにそれに当てはまるだろう。
親や指導者といった大人がこの問題を理解し、考え方を変えていく必要に迫られている。
繰り返しになるが「生まれ月で才能は決まらない」。だからこそその才能の芽を摘んではいけない。そして、これだけ多くなった娯楽の中から野球を選んでくれた子供たちから不条理に喜びや可能性を奪ってはいけないのだ。