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スポーツの「翻訳」っていったい何?
今、話題の学者・伊藤亜紗の新研究。 

text by

宮田文久

宮田文久Fumihisa Miyata

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photograph byKaori Nishida

posted2020/05/18 07:00

スポーツの「翻訳」っていったい何?今、話題の学者・伊藤亜紗の新研究。<Number Web> photograph by Kaori Nishida

この絡まったアルファベットがフェンシングの本質である、と言われたらどう思うだろうか。

もしバッターがピッチャーに触れていたら。

――野球の回では、ピッチャーマウンドとバッターボックスの間で行われる駆け引きを翻訳しましたね。本来は離れた、いわばリモートの状態であるわけですが、「バッターがピッチャーの肩に触る」というフィジカル・コンタクトのもとに翻訳しました。ピッチャーの肩の筋肉の動きを触って球の速さを判断する、というものですね。

「実はそれは、見えない人がいつもやっていることだとも思うんです。目の見えない人は基本的に、世界や社会が自分とフィットしていなくて、アウェイの状態であるわけです。だからこそ、フィットしていないものを常に翻訳しながら生きている。

 たとえば買い物でお金を払うにしても、見えている人だったらお金を見て『これが1万円札だな』と思って払っているわけですが、見えない人はその確認の仕方ができない。だから、サイズや質感で判断するような、それぞれの工夫をしているんです。

『見えないスポーツ図鑑』も、そうした工夫の取り組みだとも思います。野球ではバッターとピッチャーが接触していないんだという所与の条件に対して、いや、接触していないとわからないのだとD.I.Y.の精神で解体して、そこからもう一度本質を取り出す。

 見えない人が情報を得るのに特異な接触という条件のもとで、リモートで行われているスポーツをどう再現できるのか――とても象徴的な翻訳だったと思います」

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