億万長者のように生きたい。
～草の根を忘れたスポーツは滅ぶ～

　意味を深く考えたわけではない。往時の名スポーツライター、レッド・スミスの一言がただ好きだ。

「億万長者にはなりたくないが億万長者のように生きたい」

　常盤新平の『ザ・ニューヨーク・アイ・ラブ』（1989年、講談社文庫）で知り、英語でどう表現するのかと調べてもわからず、やがてインターネット時代は到来、ニューヨーク・タイムズ紙のスミスを偲ぶ一文に「実物」を見つけた。アイ・ドント・ウォント・トゥー・ビー・ア・ミリオネイヤー、アイ・ジャスト・ウォント・トゥー・リブ・ライク・ワン。

　忍ぶがごとく、それでいて露骨にウィルスが飛んで散って、誠実で不器用な主人の営む酒場が困っている。医療従事者は使命とスキルを生死の前線にこの瞬間も捧げる。スーパーのレジを打つパートの女性はここにいるのが当たり前のような表情を崩さない。