濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
格闘技大会に防護服カメラマンが。
『ONE』、異色で究極の無観客試合。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakashi Iga
posted2020/04/23 07:00
防護服姿のカメラマン、すなわち中継を見る格闘技ファンに向けてマイクを握った青木。“賛否両論”は織り込み済みだ。
試合後の“問題発言”の意図とは?
試合後、マイクを握った青木はこう言い放った。
「いつ死んだっていいんだよ俺! いつやめたっていいんだよ格闘技! 死にたくねえ、負けたくねえんだったらずっと家にいろよ! テレビの前に座ってるお前らよく聞けよ。死にたくねえ、負けたくねえんだったら試合しなきゃいいし、家にいればいい。Stay Homeってずっと書き込んでろ! でもな、でもな、でもな! 生きるってそういうことじゃねえだろ。日々、嫌なことと闘って、クソみてえな世の中を生きてくんだ! 生きるっていうのは家の中にいることじゃねえ!」
誰がどう見ても“問題発言”だ。はっきりと間違っている部分さえある。青木は「いつ死んだっていい」というが、Stay Homeが大事なのは「うつして(殺して)しまうかもしれない」からでもあるのだ。
ただこのマイクは「ごまかし」だ。言い換えると確信犯の逆張り、「まあ引き分けか……」で大会(番組)を終わらせないための言葉だ。「顰蹙は金を払ってでも買え」というわけで、無風よりは炎上のほうがいいと青木は考えたのだろう。
試合も大会運営も“リスクとの闘い”
青木と世羅はリスクを避けながらギリギリのところでせめぎ合っていた。それは「感染リスク」と向き合う大会そのもののようでもあった。筆者は青木の言葉すべてに賛同はしない。ただ“炎上上等”のマイクの意図が“みんなと同じなら安心か? もっと自分で考えようぜ”であることは分かる。
「表面には触らないようにしてください」
大会が終わると、場内では“防護服の脱ぎ方”レクチャーが始まった。それから消毒スプレーを浴びる。
こんな形の大会がいつまで続くか分からない。何が正解かも分からない。ただ正解が分からないからといって考えることをやめてはいけないのだろうと、消毒液で指の間をこすりながら思った。