濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
格闘技大会に防護服カメラマンが。
『ONE』、異色で究極の無観客試合。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakashi Iga
posted2020/04/23 07:00
防護服姿のカメラマン、すなわち中継を見る格闘技ファンに向けてマイクを握った青木。“賛否両論”は織り込み済みだ。
大会を“コロナ時代”のモデルケースに。
理由の1つは、選手に試合の機会を作ることだ。今は我慢の時だと誰もが分かってはいるが、試合ができるのであればそれにこしたことはない。
試合から遠ざかれば実戦の勘が鈍るし、ファイトマネーを稼ぐこともできない。今大会のセミファイナルでONEに初出場したキックボクサーの緑川創は「この時期に試合ができたのは素直にありがたいです。僕はふだん2、3カ月に1回のペースで試合をしているので」と語っている。
またABEMAには、今後の格闘技のあり方を模索し、モデルケースを作ろうという狙いもあったようだ。
よく言われるように、緊急事態宣言の期限が来たら新型コロナ禍が終息すると約束されているわけではない。さらに長期化する可能性も充分にある。感染拡大のピークが去っても、人類と新型コロナウィルスがうまく“付き合って”いくような世界も考えなくてはいけないだろう。
そうなった時に、格闘技やプロレスや、いやそれに限らずスポーツやエンターテインメント・イベントはどうすれば開催できるのか。どういう形なら無観客試合が成立するのか。そうしたことを探っていくのは、確かに重要なのだ。
国からの休業補償は不可欠だが、それでアスリートやアーティストの“競い合うこと”“表現すること”への思いが長く抑えられるものなのか。誰も断言はできない。
「マイク(アピール)でごまかした(笑)」
『Road to ONE 02』のメインは、元ONE王者・青木真也と強豪柔術家・世羅智茂のグラップリングマッチだった。青木が上、世羅が下から攻めようとするものの決定的な場面はなく、10分時間切れで判定なしの引き分けに。
試合後、世羅が「負けない試合」をしたと指摘した青木だが、自身もまた余計なリスクは避けたと語っている。
曰く「ちゃんと格闘技やってるってことでしょう」。相手に隙を見せてまでアグレッシブに闘うという選択肢は、この男にはない。だから強いのだ。
それでも、自分が大会を背負っているという自覚はある。不完全燃焼の引き分けでも大会を締めなくてはという責任感が青木に生じた。結果「マイク(アピール)でごまかした(笑)」と青木。