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<エールの力2019-2020 vol.9>
太田雄貴「歓声の力を知る若きトップの改革」

posted2020/04/30 11:30

 
<エールの力2019-2020 vol.9>太田雄貴「歓声の力を知る若きトップの改革」<Number Web> photograph by AFLO

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph by

AFLO

 日本フェンシング界の第一人者、太田雄貴さんには、心が震えるような大声援の記憶がある。

 舞台はパリ。それは毎年1月に開催される、伝統の大会CIP(Challenge International de Paris)での出来事だった。

 強敵と一進一退の攻防をくりひろげる彼の耳に、予想もしなかったかけ声が飛び込んできた。

「アレー! ユーキ!」

 地元パリの子どもの声。それは次第に大きくなっていった。多くの観衆、とくに子どもたちが太田さんの応援を始めたのだ。

 太田さんは驚き、やがてうれしさと誇らしさで胸が熱くなった。

「当時ぼくはすでにメダリストになっていましたが、フェンシングの本場フランスでは、アジア人選手はほとんど応援してもらえません。にもかかわらず大声援をもらえたのは、目の肥えたファンをうならせるプレーができていた証かと。子どもたちが熱心に応援してくれたのは、背の低いぼくの戦いぶりに小さな自分を重ね合わせてくれたのだと思います」

 アジア人選手として、パリのアリーナで大歓声を浴びる。

 それはトロフィやメダルにも負けない、大きな誇りとなった。

 個人戦のイメージが強いフェンシングだが、とりわけ盛り上がるのが団体戦。

 ポイントが決まるたびに、ファンはもちろん、選手が戦うピストの近くでチームメイトが声をからす。

 そのためアリーナは怒涛の大歓声に包まれる。

 北京でフェンシング日本史上初の個人メダリストになった太田さんは4年後、今度はロンドンで初の団体メダルをもたらす原動力となった。

【次ページ】 メダルをもたらしたベンチからの声。

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