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<エールの力2019-2020 vol.9>
太田雄貴「歓声の力を知る若きトップの改革」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byAFLO
posted2020/04/30 11:30
メダルをもたらしたベンチからの声。
太田さんは「フェンシングでは、ベンチからの声で試合の流れを変えられるんです」と語り、こう続ける。
「でも団体戦は歓声がものすごくて、しかも日本は声が小さな選手ばかり。そんな中、ぼくはウクライナ人コーチ、オレグの指示をわかりやすく咀嚼して、ピストで戦う選手に伝える役目を担っていました」
かけ声のポイントは、大きな声で端的に。
「立て続けに4、5点連取されるとき、選手はたいていパニックに陥っています。そこでどれだけ的確な指示を出せるか。細かすぎると伝わらないこともあるので、コーチが決め打ちして指示するときもあります。『“これ”をやって耐えろ!』というように」
ロンドンでの団体戦。太田さんはドイツとの準決勝で驚異の粘りを見せ、日本をファイナルに導いた。
「翌日はまったく声が出なくなった」
だが、試合についてはほとんど憶えていない。記憶に残っているのは、試合翌日からの声がれ。
「翌日は声がまったく出なくなっていました。団体戦は45ポイントをみんなでつないでいくので、1ポイント取るたびに大声を出す。それを一日に3、4試合続けていく。のどにものすごく負担がかかるわけです」
ロンドンのうれしい痛みを経験して、大会や遠征に出るたびに太田さんが持参するようになったものがある。
「のど飴です。ぼくはのどが弱いこともあって、現役生活の後半からのど飴を重宝するようになりました。日本フェンシング協会の会長になったいまも、取材は一日3本が限界。たくさんしゃべると、声がかれてしまいますから」