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F1の開発力でコロナウイルスと戦う。
休業中の技術者が医療現場に貢献。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byUniversity College London

posted2020/04/06 11:00

F1の開発力でコロナウイルスと戦う。休業中の技術者が医療現場に貢献。<Number Web> photograph by University College London

メルセデスが医療関係者と短期間で共同開発した呼吸補助装置。

呼吸補助装置のプロトタイプを共同開発。

 メルセデスのスタッフは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のエンジニアおよびUCL病院(UCLH)の臨床医とともに、呼吸補助装置のプロトタイプを共同で開発していたのである。

 イギリスでは新型コロナウイルス感染症による肺炎患者が急増し、人工呼吸器が不足している。イギリスの国民医療サービス(NHS)によれば、呼吸障害に苦しんでいる患者のために、約3万台の人工呼吸器または呼吸補助装置が必要だという。

 そこでHPP、UCL、UCLHのスタッフが目をつけたのが、持続的気道陽圧(CPAP)療法で使用される人工呼吸器のひとつだった。

 医療現場で患者に酸素を送り込む機器が人工呼吸器だ。それにはさまざまな種類があるが、気管を切開してチューブを挿し込む“侵襲的陽圧式換気”による人工呼吸が一般的だ。

 しかし、気管切開術にはあらたな感染症のリスクが伴う。また重症肺炎患者の急増で、そもそもこの人工呼吸器が全世界的に不足し始め、軽度から中等度の肺炎患者にまで人工呼吸器が回らず、彼らの重篤化を止められないという悪循環に陥っているのが現状だ。

 その点、CPAPは気管切開術を必要とせず、機能も侵襲的陽圧式人工呼吸器ほど複雑ではないため、短時間で大量に生産できるというメリットがあった。

わずか10日で当局の承認まで。

 深刻な被害が出ているイタリア北部のロンバルディア州では、CPAPを使用した患者の約半数が、侵襲的陽圧式換気の人工呼吸器を使用せずに済んだと報告されている。

 UCLの上級学術管理官であるデビッド・ロマス教授によれば、このプロジェクトは3月中旬にスタートし、24時間体制で開発を進め、わずか10日で規制当局の承認を得たという。

 メルセデスはこれまでに40台のCPAPをUCLHに納入。

 UCLHのマービン・シンガー教授は「CPAPの導入で、現在不足している侵襲的陽圧換気による人工呼吸器を最も重篤な患者に優先して使用し、軽度から中等度の患者にはCPAPを与えることで、多くの患者を救えるだろう」と、メルセデスの協力に賛辞を贈った。

【次ページ】 競い合ってきたエンジニアが一致協力。

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