水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
「無観客」W杯予選を見た水沼貴史が
痛感する、大観衆の中で戦える喜び。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/03/23 19:00
ドイツW杯アジア最終予選、北朝鮮vs.日本の試合開始前。無観客の中で勝利した日本は32カ国中最速でのW杯出場権獲得となった。
「1人対5万人」のコミュニケーション。
<これまで日本サッカーの発展に貢献し、今もなお近くで見続ける水沼氏は「観られる」ことがいかに選手にとって大切かをさらに教えてくれた。>
観る人たちを楽しませたいというのは、サッカーに限らず、プロアスリートの原点です。
例えば5万人の大観衆が見守る中でボールを持ったとします。その視線のほとんどが自分に集まりますよね。そこでドリブルで相手をかわしたり、華麗なパスを通すと「ワッ」と沸く感覚があるわけです。そういった感嘆の声は、応援の歓声とはまた違う。選手はその時に「あっ、自分のプレーが伝わったんだ」と感じるんです。言い換えれば「1人対5万人」でのコミュニケーションを取るような感覚です。
記事などで反響があることもそう、SNSで「いいね」がたくさんつくこともそう。自分の意思や考えていることが多くの人に伝わった時は嬉しいですよね。アスリートにとっても同じように自信となります。
もちろん、伝わらないことの方が多い。でも、その共感を繰り返していくことは選手にとっても大事だし、楽しさでもあります。その成功体験の積み重ねが成長につながるんです。
Jリーグとしてもこれまで多くの人に支えられてきたことが、ここまでの急成長につながっていると思う。それだけ観られることはプレーヤーにとって大きいことなんです。
新シーズンに臨むくらいの気持ちで。
<3月23日時点では、Jリーグ再開の見通しは未だ不透明のままだ。いつ再開になるかという、未知の時間を過ごす選手たちの体調管理にも水沼氏は気遣っていた。>
ヨーロッパのリーグもまた日本と同じように中断され、クラブ活動自体を禁止されているところが多いようですね。幸い、Jクラブは現状では活動が許可され、チームのマネジメントに合わせてコンディションを維持できる環境があります。
ただ、体とともにメンタルのコントロールも重要。トレーニングマッチなども組まれているようですが、それを実際のリーグ戦に置き換えたイメージを持つことが大事だと思いますね。開幕戦こそ消化しましたが、それをリセットして、新たなシーズンに臨むぐらいに考えた方がいいかもしれません。
家族を持つ人、または地域の差などによって選手が置かれる立場はさまざまだと思いますが、どんな状況であれ、ピッチに立ったらプロとしていつものプレーの強度を保たないといけない。難しい状況ですが、ここを乗り越えて、ベストパフォーマンスが出せるよう慎重に過ごしてほしいなと思います。