水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
「無観客」W杯予選を見た水沼貴史が
痛感する、大観衆の中で戦える喜び。
posted2020/03/23 19:00
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph by
Takuya Sugiyama
<新型コロナウイルス感染拡大の影響で、中断から約1カ月が経過したJリーグ。4月上旬の再開を目指すものの、村井満Jリーグチェアマンが「最後の最後の手段」と話した“無観客試合”でのリーグ再開もゼロとは言い切れない状況になってきた。もしそれが現実となったら、選手にとってどういう影響を与えるのか。水沼貴史氏に解説してもらった。>
無観客試合と聞いて思い出すのは、2005年のドイツW杯予選。中立国であるタイで開催された日本vs.北朝鮮戦です。私も含め、多くの報道陣が押しかけたことで見ている側としてはそこまで“異様さ”を感じることはなかったのですが、ピッチに立つ選手はやりづらそうにしていましたね。
ガランとしたスタジアムに、まるで紅白戦のような雰囲気。サッカー選手も人間ですから、いつもとは異なる環境下では、プレーの強度や判断にも少なからず影響が出てくるのは仕方ないでしょう。
ただ、印象深かったのは、スタジアムの外から声援を送ったサポーターへの感謝の気持ちを選手が強調して話していたことですね。試合を見ることができずとも現地まで足を運び、日本代表を後押ししてくれた。その試合は2-0で勝利を収めましたが、選手たちはいつも以上に、その「声」に大きな力を感じたはずです。
無観客で一番難しい気持ちの部分。
選手たちにとって「無観客試合」で一番難しいのはモチベーションのコントロールではないでしょうか。
今回、村井チェアマンも話していましたが、サッカーにはサポーターの声援によって突き動かされる場面が多々あります。ギリギリのところで足が出るシュートストップに、アディショナルタイムでのカウンター……声の力を受けたプレーは、勝敗さえも覆ることがある。ピッチに立った経験がある人は、その底知れぬパワーを理解しているはずです。
私が初めて“大観衆”を前にプレーしたのは高校サッカー選手権。高校生が超満員の国立競技場のピッチに立ったわけですが、当然、緊張はありました。
ただ、それよりもこんなたくさんの人たちの前でプレーできるという「喜び」が勝り、いつも以上の力が発揮できたように感じます。その後の天皇杯、Jリーグ開幕もそうでした。かつての日本リーグ時代は、毎度ほぼ無観客試合のようなものでしたから、その光景を知る人にとっては、あの感情はなかなか代え難いものがある。
改めて今回のような事態になると、観客の方々に見てもらう中でプレーできるというのは、当たり前じゃないんだなと再認識させられますね。