濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
デスマッチ選手が救急搬送も……。
米団体GCW“狂気の宴”に喝采やまず!
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byYumi Murakami
posted2020/02/06 19:00
レフェリーストップに終わった竹田誠志とオリン ・バイドのデスマッチ。蛍光灯にハサミと“いつもの竹田の試合”だったのだが。
「単純な“残酷ショー”が見たいわけではない」
何度かデスマッチを見れば、選手たちが相手にダメージを与え、自分も傷つきながら“致命傷”だけは避けていることが分かるはずだ。
レフェリーは蛍光灯やガラスの大きな破片を発見するとリング外に排除する。攻撃で飛び散る破片から観客を守るのはセコンドの仕事だ。そういった細かい配慮があるからこそ、選手はムチャができる。これは決して矛盾ではない。
ファンもただ単純な“残酷ショー”が見たいわけではない。
蛍光灯にガラス、フォークに注射器にあげくは芝刈り機まで使って闘うデスマッチファイターに我々が抱くのは、深い畏敬の念だ。血と傷で“闘いのドラマ”を描く選手たちの精神性に熱狂し、声援を送るのがデスマッチファンである。
何度もデスマッチを取材してきたが、会場で「やっちまえ!」、「殺せ!」といったヤジは聞いたことがない。
「どこまでやっていいのか」の自問自答。
竹田は「サイドバスター on 包丁ボード」の受け身に失敗した。対戦相手オリン・バイトの投げ方、包丁ボードの“作り”にも何か問題があったのかもしれない。もちろんアクシデントの要素もあるだろう。竹田は大日本プロレス、FREEDOMSの“デスマッチ2冠”を達成し、アメリカに乗り込んでGCWのトーナメントで優勝したこともあるトップ選手だ。その竹田でさえ失敗もアクシデントもあるということだ。
包丁を“デスマッチアイテム”にすることが、そもそもやりすぎだったのかもしれない。
「デスマッチは否定しないが包丁はダメ」という意見もある。ではどこまでなら良いのだろうか。
同じ刃物でも、カミソリやノコギリはすでにポピュラーと言ってもいいアイテムだ。「ヘタしたら大ケガする」のは基本技のボディスラムにしても同じだろう。
きっと、何かを禁止すればそれで済むというものでもないのだ。
「どこまでやっていいのか」という問いは、プロレスが存在する限り続く。“クレイジー”が誉め言葉になるデスマッチの世界ではなおさら、自問自答を続けなくてはいけない。
「デスマッチ廃止」、「包丁禁止」は、とりあえずその瞬間だけ安心するための思考停止でしかない。