酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
松井裕樹の先発転向はどうなる?
リリーフからの成功例は少ないが。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2020/01/03 11:30
松井裕樹は切れ味鋭いスライダーと伸びのある直球で小気味よく三振を奪っていく。その姿を初回から見られるのを楽しみにしたい。
リリーフと先発は全く異なる職種。
救援投手と先発投手は、マウンドで見る姿は同じだが、全く異なる職種だと言っても良い。
今のプロ野球では、ローテーションに入った先発投手は中5~6日で、週1回しか投げない。この間、試合があってもベンチ入りすることは原則ない。先発投手は投手コーチやトレーナーとともに、ノースロー期間から徐々に投球数を上げて次の登板機会に備えるのだ。
精神面では徐々にモチベーションを高めていき、次の対戦打者の情報なども頭に入れる。睡眠や栄養補給などにも気を使い、万全のコンディションに持っていく。先発投手に必要なのは「自分で自分をコントロールする」ことだ。
ほぼ毎日ブルペン待機の過酷さ。
これに対し、救援投手は原則として「上がりの日」以外は、毎日ブルペンに待機する。セットアッパー、ワンポイント(シチュエーショナル)、クローザーなど持ち場によってブルペンで肩を作るタイミングは違うが、ほぼ毎日ブルペンで投げ込みをする。投げるかどうかは、ブルペンコーチが判断するが、試合展開によって刻々状況が変わってくる。
それでもクローザーはセットアッパーとは異なり、投げるのは最終回と決まっているが、「今日は出番はないだろう」と思っていても中継ぎ投手が失点して、急遽マウンドに上がることもある。その中で、いつも少ない球数で肩を作らなければならない。
何より「自分が打たれれば勝利を失う」という、ひりひりするような緊張感とともに登板するのだ。
また救援投手は先発投手と異なるのは「自分の都合」ではなく、「チームの都合」でマウンドに上がる点だ。
森繁和さんは「救援投手はブルペンで立ったり座ったりする間に消耗するんだよ」と言っていたが、その心身の過酷さは他のポジションの比ではない。
喩えるならば先発と救援は医師で言えば勤務医と救急医くらい、仕事内容の差があるのではないかと思う。
岩瀬仁紀(元中日)や、宮西尚生(日本ハム)のように救援投手というポジションに適応して数多くのセーブ、ホールドを上げる投手もいるが、1、2年救援のマウンドで活躍して消えていく投手も少なくないのだ。