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岩佐亮佑に迫るアメリカンドリーム。
背水の陣で見せた緻密さと左パンチ。 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byEmilee Chinn/Getty Images

posted2019/12/12 11:40

岩佐亮佑に迫るアメリカンドリーム。背水の陣で見せた緻密さと左パンチ。<Number Web> photograph by Emilee Chinn/Getty Images

2階級制覇を狙うマーロン・タパレスにKO勝ちした岩佐亮佑。ブルックリンのリングで強烈なインパクトを見せつけた。

世界級のサウスポーを攻略した「左」。

 この日の岩佐が素晴らしかったのは、中盤ラウンドにチャンスを迎えた後も勝負を焦らなかったことだ。

「相手の隙を時間をかけて引き出す」と、最後までバランスの良い攻防を心がけた。9、10回も相手の強打への警戒を解かず、それでいてジャブを重視してポイントは連取。11回、決着を呼び込んだ得意の左パンチも、狙い澄ましたものではなく、流れの中で飛び出したものだったという。

「あれを狙いすぎて、僕はハスキンスにカウンターを合わせられたんです。その怖さがあったんで、なかなか前半はいけなかった。タパレスが打ち終わりにカウンターを狙っていたのがわかったんで、行きづらかったんです。でも相手が疲れてきて、鈍くなってきたのはわかっていた。そこで自然と出たパンチですね」

 過去の反省を生かして放たれたこの一撃で、目の肥えたニューヨークのファンをも感嘆させ、過去3敗を喫してきた世界レベルのサウスポーをついに攻略した。

対策と努力が生んだKO劇。

 セレス小林会長いわく、サウスポー対策のカギは、打たれた時に下がるのではなく相手の懐に入ること。それでいて前のめりに詰めるのではなく、体で押し負けず、バランス良く攻めることだったという。そんな戦法を可能にするには、何より体力が必要。前回の敗戦後、WBA世界ミドル級王者・村田諒太(帝拳)も指導する中村正彦トレーナーの下で地道に体力強化を目指してきた。

 土俵際で迎えたタパレス戦は、これらのすべてが結実した舞台。過去の苦い経験と、その後の対策と努力が実を結び、生涯最高のKO劇は可能になった。

「ハスキンスに負けた経験があったから、(攻めに)行き過ぎなかった。(消極策が命取りになった)ドヘニー戦があったから、行かな過ぎもしなかった。プレスかけながら行くっていうのをバランスよくできた。本当に経験ですね。負けた(経験がある)から、今日は勝ったんだと思う」

【次ページ】 間近に迫るアメリカンドリーム。

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