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あと1/4回転。羽生結弦が憧れの地で
4回転アクセルに挑んだ理由とは。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2019/12/11 10:30
4回転アクセルは“王様のジャンプ”と言う羽生。「ジャンプだけじゃなくてフィギュアスケーターとして完成させられるものにしたい」とも語った。
「色んな覚悟を決めました」
実際のところ、4回転アクセルの練習はほぼ3カ月ぶりだった。
夏の間は、ハーネス(補助器具)を使っての練習が多く、その場合は、高さを補助してもらうため回転が足りた状態で降りる。
しかしハーネス無しで回転不足のまま着氷してしまうと、前のめりに転倒して肩や膝を打つか、斜めの回転軸で降りて足首や膝を捻るリスクがある。
「4回転アクセルの練習をするからには、色んな覚悟を決めました。まだ回転が足りきっていないジャンプは、いつどこを痛めてもおかしくない。
試合の公式練習だからこそ、気合いが入りすぎていつもより(高く)浮いて、前(2017年NHK杯)と同じような大きなケガをするリスクもあります。この時期にケガをしている確率が高いという意味でも怖かったです」
「試合ごとそこに賭けるくらいのつもりで」
また、フリー前日の公式練習は、本来ならば力を温存するタイミング。4回転アクセルを跳ぶためには、左足でマックスの筋力で跳び上がり、異常な遠心力に耐えるために体幹も使う。翌日に疲れが残ることは必至だった。
「ここで無理して力を出し切ったら、フリーまで持たないのも分かっていました。試合を捨てるという言い方はふさわしくないかも知れないけど、試合ごとそこに賭けるくらいのつもりで練習しないといけない、という覚悟がありました」
ケガのリスクと、フリー演技への影響。すべてを受け入れることを決めた。
そして12月6日の公式練習が始まった。11時35分に氷に降り立つ。
4回転ループもルッツも好調。曲かけ練習では、4回転5本の構成を練習した。そして練習時間が残り12分ほどになると、シンプルなトリプルアクセルを跳んだ。続いて高さのあるシングルアクセルを跳んで、確認するようにうなずく。
そして残り5分となったその時。初めて4回転アクセルに挑んだ。そこから練習終了までに計3本、4回転アクセルを跳び、転倒した。