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あと1/4回転。羽生結弦が憧れの地で
4回転アクセルに挑んだ理由とは。 

text by

野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byAsami Enomoto

posted2019/12/11 10:30

あと1/4回転。羽生結弦が憧れの地で4回転アクセルに挑んだ理由とは。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

4回転アクセルは“王様のジャンプ”と言う羽生。「ジャンプだけじゃなくてフィギュアスケーターとして完成させられるものにしたい」とも語った。

「ショートのあと絶望していました」

 公式の場では気丈に振る舞っていた彼だが、本音は違った。

「正直な気持ちをいってしまうと、ショートのあと絶望していました。13点差というのは、4回転を1本増やしたから縮まるものではないのは凄く分かっていましたし、ネイサン自身も4回転を5本跳ぶだろうということも分かっていたので(逆転は)難しいなと思っていました」

 ショートが終わった夜、羽生は自問自答した。

「なにかここで爪痕を残したいなと思って、いろいろ考えました。『どうして今回、コーチが来れなかったんだろう』『どうしてショートでミスをしてしまったんだろう』と。運命主義者ではないけれど、何かしらの意味がそこにはあると思いました」

一般論では考えられないこと。

 ジスラン・ブリアンコーチはトラブルのために到着が遅れ、ショートには不在。ショート翌日の公式練習にも間に合わないことが分かっていた。

「意味があるとしたら、ストッパーがいない今だから、自分だけで決められる今だからこそ、4回転アクセルを練習することを自分に許してしまいました」

 4回転アクセルは危険な技だ。ケガのリスクも高く、また身体への負担も大きいため、まだフリー演技が控えているタイミングで挑戦するなど、一般論では考えられないことだった。

「コーチがいたら止められたと思います。『何が大事なんだ』という話になった時に、試合の方が大事なので。でも幼い頃の自分が、今の僕を見たときに、胸張って『ここで何かをやった』と言えるのか。

 フリーの試合だけに体調を合わせても、(4回転5本の)あの構成でノーミスをすることは不可能に近かった。それに賭けて、しかも勝てないんだったら、自分がここでやるべき事は、(試合で)4ルッツをしっかり跳び切ることと、(練習で)4回転アクセルを完成させたいという事でした」

【次ページ】 「色んな覚悟を決めました」

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