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「パラスポーツ×限界への挑戦」
松田丈志と山田拓朗が語る水泳の魅力。 

text by

谷川良介

谷川良介Ryosuke Tanikawa

PROFILE

photograph byWataru Sato

posted2019/11/29 15:00

「パラスポーツ×限界への挑戦」松田丈志と山田拓朗が語る水泳の魅力。<Number Web> photograph by Wataru Sato

さまざまな競技を取材する松田氏(左)は、この日も東京パラリンピックを目指す山田に質問を投げかけていた。

強い選手は調子の波を知っている。

オリンピック、パラリンピックと舞台こそ違えど、世界最高峰の選手たちが集まるプールには独特の空気が流れる。これまで経験した他大会とは異なる緊張感があったと口を揃えた。

松田 全員の選手が本気だということが(他の大会とは)違う。4年に一回、そこを目掛けて世界のトップ選手たちが照準を合わせてくるわけですし、トップになればなるほど、大きい期間でスケジュールを調整しているんです。

 少し意外かもしれませんが、(オリンピック)前年の世界選手権では、気合いが入っていない選手もいます。海外では特に。どの選手も目の色を変えて、全員が一番の大会だと思って挑む。それこそがオリンピックなんです。

山田 それはパラリンピックも同じ。他の大会と規模や会場の大きさも異なりますし、迫力が違えば、周りの選手から感じる気迫もすごい。それに明らかにみんなの調子がいいんです。予選から「昨年までそのタイムで泳いでなかったじゃん」と驚くぐらいの記録で泳いでくるので。

松田 そう、急に早くなる選手がいますね! オリンピックにピークを持ってくるベテランもいれば、別人のように急に伸びてくる若手もいる。だからこそ、出場する全員がもうひとつ、もうふたつぐらいレベルアップしてくるという想定のもと練習をしています。

 それに常に試合ができる身体を維持することは難しい。1年後、半年後と、先を見据えて練習量や体重を管理して、ピークの瞬間をつくっていくもの。オリンピックのあとすぐに、実家の宮崎で地元の仲間たちと海でBBQをしていると、「あれ、なんかオリンピックのときと体つきが違うんじゃない?」と言われたことがありました。それぐらいの短い期間でも変化があるんです。

山田 本当にそうですよね。毎日やる練習のなかで良い時期と悪い時期はありますし、自分の中で感じる調子の波もあります。レベルが高い選手になればなるほど、それぞれの波を理解している。大事なところにピークを合わせられるのが強い選手だと思います。

壁にぶち当たったときの対処法。

アスリートにとってコンディション調整と共に重要なのは、日々のメンタルコントロールだ。山田から“先輩”松田に質問が飛んだ。

山田 現役の時からすごい練習量をこなしている松田さんを見ていました。練習の中で調子の良し悪しや、気分が乗る日も乗らない日もあると思うんですけど、そこをどうコントロールしていましたか?

松田 200mバタフライは本当にタフな種目です。どんなに練習しても最後は必ずバテる。ラスト15mぐらいはみんなきついんです(笑)。でも、そこで順位が変わる種目なので、勝つためには苦しいトレーニングをやることは大前提。だから、苦しくなってからが練習。「きつくなってきた……つまり、俺は今から強くなれる!」みたいな気持ちでした。

山田 もう一段ギアを上げるというイメージですね。

松田 そう。厳しくなってからこそ、練習の本番だという気持ち。ただ、壁にぶち当たった時は、やり方を変えたり、努力の方向性が間違っていないか探る作業は必要ですよね。やっぱり人間だから、どうしても主観的になりがちです。分析の専門家にアドバイスをもらうなど、より客観的な意見を取り入れる工夫はしていましたよ。

山田 水泳の練習はすごく地味で、他の競技と比べても精神的にもつらいですよね。それに自己ベストも頻繁に出せるわけでもない。僕も、一番大事にしていたのは、自分の目標をブラさないこと。試行錯誤していくなかで小さな変化を楽しみながらチャレンジし続けてきました。

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