畠山健介のHatake's roomBACK NUMBER
畠山健介が語る古巣、家族への感謝。
米国ラグビーという少し先の未来へ。
text by
畠山健介Kensuke Hatakeyama
photograph byKensuke Hatakeyama
posted2019/11/04 11:30
ニューイングランド・フリージャックスと2年契約を結んだ畠山健介。どんなときも全力でぶつかり続けた男の挑戦を応援したい。
サントリー退団は心臓をえぐられた。
昨年末、11年間所属していたサントリーサンゴリアスから12年目以降の契約更新をしない旨をエージェントを通して伝えられた時の衝撃は、いまも忘れない。
心臓をえぐられたような、冷たく暗い深い水の中に沈んでいくような感覚。33年間生きてきて、あの感覚は初めてだった。目の前が真っ暗になり、どうすればいいのか分からず、静止したまま混乱し、正しい呼吸を忘れるほど考え込んだ。
そんな僕を正気に戻してくれたのは娘(長女)だった。
元気のなさそうな僕に歩み寄ってきた娘に、「お父さんがもうラグビーしないってなったら、寂しい?」と語りかけた。
「もうプレーしないの?」と娘は聞いた。
「そうなるかも。どう思う?」と僕は聞いた。
娘は満面の笑みで「続けて欲しい」と言った。僕は人前にも関わらずボロボロと涙を流した。
大好きなチームでの現役引退も考えた。
引退――アスリートならば誰しもが通る通過点。どんなに偉大なアスリートでも、避けられない選択。ただ、タイミングは人それぞれだが。
W杯が母国で開催されるこのタイミングが、娘が小学校に入るこのタイミングが、自分の正しい選択なのか分からなかった。
8歳から始めて26年になるラグビーは、職業であり、特技であり、生き甲斐であり、ライフワークだ。引退すれば、それがもうできなくなる。でも、サンゴリアスという、本当にお世話になった大好きなチームで現役生活を終えるのも、悪くないんじゃないのか?
平成という時代で選手キャリアを終え、令和からは新たなステージで頑張る。分かりやすいタイミングなのかも……と、自分で自分を納得させようとした時、心の奥底からこう思った。いや、こう聞こえた気がした。
「イヤだ。まだプレーしたい」
どん底になって初めて生まれた、正直な自分自身の言葉。世界で一番大好きなチームでは、もうプレーできない。それでもプレーしたい。僕はプロラグビー選手だ。プロは自分を必要としてくれる、自分を評価してくれる場所でプレーする。
大好きなチームでだけプレーしたいだなんて、プロでもアマチュアでもない、ただの甘ちゃんだ。